嗚呼夏の天才がいる後ろからわたしの頬にあたるカルピス (斎藤君)
この作者はおそらく何かの天才なのだ。天才はセンスが格別なので、複数のことに長けていることもあるが苦手なジャンルもある。運動音痴の画家とか、恋愛はからっきしな学者とか、方向音痴の歌手とか。この歌の主体も、自分のセンスの及ばない「さわやかでキラキラの青春」ジャンルの才をみせつけてくる友人に完敗を認めている。「嗚呼」という初句の叫びには、全く歯が立たない遠さが出ていて、「夏」という括り方には、友情も恋もスポーツもルックスも全部持っていく相手(天才)の強烈さが出ている。教室か体育館か土手か、そんなところに疲れて座っている「わたし」のところに、背後から駆けてきた「天才」は、買ってきてくれた「カルピス」をいきなり「わたしの頬」につけて笑って差し出すのだ。アイドル主演の青春ドラマ以外でどこにこんなヤツがいるだろうか。気が利いていて可愛くて明るくて爽やかなこんな友人がいたら、性別を問わず嫉妬を覚える。この主体にとって天才が同性であれば強い劣等感が生じ、異性であれば一瞬で恋に落ちそうだ。
こんな激しい心の波立ちを、さらりと、嫌味ゼロの青春歌にしてしまう短歌の「天才」に私は嫉妬を覚えるけどねw
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