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第27巻

野球の試合をちゃんと描くというのが『H2』の趣向だ。だからといって全ての試合を描くと冗長になってしまう。結果だけで良い場合も多い。
この巻は千川高校+比呂の甲子園優勝というイベントの下準備である。それさえも
春・夏連覇を狙う千川+比呂VS夏の二連覇を狙う明和第一+英雄
という大舞台の下準備に過ぎない。
比呂が甲子園で投げているにも関わらず、この巻の主役は英雄である。それで下準備ながらドラマを感じるように作られている。


第8話 子供だな
本巻冒頭から英雄をめぐる事情が続いている。本回でそれがクライマックスに達する。
本回は四幕構成にカットバックが入り込んで複雑な構成になっている。お芝居ふうに言うと四幕七場。

P132~P134 第一幕 ひかりの心中が中心の幕。P132はP133の回想になって、P134はP133の別の場になっている。
P135~P139 第二幕 甲子園の試合が中心の幕。P139は場を替えているが、この幕から第四幕への橋渡しにもなっている。
P140~P143 第三幕 明和第一の練習風景
P144~P148 第四幕 英雄の状況。P144は甲子園の場だがP145のラジオの放送内容になっている。P148は別の場。

本作の主人公はもちろん比呂だが、本巻の主役は英雄である。他の人物と状況はこの二人に絡んでいくように作るのがコツである。
主人公側から状況に絡まない。
第一幕でも第三幕でも比呂と英雄を話題の中心にしている。
第四幕での英雄は比呂に絡んでいる。
こうすると自然に中心人物が読者に伝わる。

巧みなのは英雄が何か故障したのはわかるが、どのくらい重篤なのか見せないまま話を進めている事である。
かと言って情報を完全にシャットアウトしているのではなく、ほどほど小出しにしている。
P127でひかりの不安な顔、P128以下の英雄の不調、それらになんの解説もないので読者はよりそそられて、のめり込む。
そういう技である。

第9話 ずいぶん素直なのね

あだちさんはシーンの切り方を慎重に扱う。
前後のシーンの内容の関連性の大小に合わせて大きく二つの手段をもつ

1 シーンのはじまりをページのどの位置に置くか
2 風景のみのコマをいくつおくか

細かく見るとこのようになる。

1-①見開きのはじまりから始まるシーンは前との関連性が弱い
1-②ページのはじまりから始まるシーンは前との関連性がいくらかある
1-③ページの中程で始まるシーンは前との関連性がある

2ー①風景のみのコマが多く続く場合は時間の経過もあり、前との関連性が弱い。読者に気分を変えて欲しい。
2-②風景のみのコマがあまり続かない場合は、時間経過が少ない。前との関連性がいくらかある

1の三つ、2の二つを組み合わせてシーンの切り方の強さを加減している。

本回を具体的にみよう。
まずP153から154。ここは1-①と2-②の組み合わせ。物語上は繋がっているが読者に関連を意識して貰いたくないので、こういう複雑な切れ目になっている。この仕掛けの理由は次巻で判明する。
次はP157。ここは1-③と2-②。前のシーンと同じ時系列を意識させながらの場面転換。
ひかりの一コマが前のシーンから入り込んでいて若干の関連性を感じさせる。
P161にごく小さな切れ目がある。1-③、2-②だが風景は一コマのみ。これは時間経過のみをあらわしている。
P162の切れ目は中くらいである。1-③と2-②。ドアをバンと閉める場面から始まってるので実際的には風景のみのコマはゼロである。実際時間上は翌日になっているのだが、物語は前のシーンから緊密に繋がっている。
P165。1-②+2ー①。時系列は同じでも全然違うドラマが始まっている。読者にそれを理解して貰うためにしっかり背景を入れている。

このようにあだちさんのシーンの切り方、出だしの作り方はかなり規則性に沿っている。前後のシーンの関連性がしっかり把握しながらこの規則をまねしていくと有効である。

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