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第31巻

舞台は夏の甲子園。最終決戦が近づく。と言ってもあだちさんはペースを変えない。数巻後に盛り上がることはわかりきっているので、なるべく平静なペースのまま進めている。その最後の決戦は比呂と英雄、しかもひかりを巡って…となるので夾雑物になりそうなものは少しづつ精算をしていっている。
ここにベテランの計算と自信が感じられる。

第1話 好きなのか?
伝えるべき情報は
1 夏の甲子園が開幕した。千川高校は二回戦、6日目に登場
2 比呂の初恋はひかりだった。
だけである。
1を取り上げたのは冒頭9ページ。
P9からP11へのおふざけの展開はベテランでないと怖くてできない。物語の調子を壊してしまいそうだから。あだちさんは最後に作者自身がぼけることで上手く緩和している。このやり方は他には永井豪さんも得意にしている。豪さんの場合はシリアスな漫画にも作者が割り込んできて、さらに緊迫する展開にすることもある。
初学の人も怖がらずに試してみるといい。うまくいけば登場人物の気がつかないところで、作者と読者が共謀しているような倒錯気味の楽しさが手に入るかもしれない。

2は残りの9ページのうち7ページ。
本回の絵としてのクライマックス(P15の柳のスケッチ)からストーリーのクライマックス(P20の最下段「ああ」)まで。上で話したようにここで伝えるべき事は2だが、そこに辿り着くまでに以下のことが読者にわかるようになっている。

①シャンプーの件で、結果的に春華を傷つけたひかりを比呂は許しきれない。また、ひかりに向かって強い態度に出なかった春華をもどかしく思っている
②柳は春華の努力を無視するような比呂に納得できない
③柳は比呂の事も春華の事も好きで、春華を仰ぎ見るように見ている
④柳の本当の恋はこれからだろう
⑤比呂は自分の初恋が遠くなろうとしていることを自覚している

あだちさんの驚異的な構成力がわかる。しかもそれがほとんど目立たない形なのにも驚く。

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