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コマ割り、ネーム技法書成立しにくさについて

それはもう簡単

前回
「コマ割りについての漫画の技法書、入門書が少ないのは何故かって言う話は、また今度」
と言いましたが、その「また今度」をやります。
何故かって言う理由はごく簡単で
「難しいから」
に尽きます。

第一に

難しさの第一は
用語が確立していない
であります。
例えば、みなさん「ネーム」っていいますか?漫画の設計図のことを?
今はほとんどこう言いますよね。でも以前は違う言い方をしました。
「コンテ」って言ったんです。この「コンテ」は映画界で使われている「絵コンテ」の流用ですね。
じゃあ「ネーム」ってなんだよ? って言ったら、これはふきだしにはいる文字、台詞のことなんですよ。
「原稿の締め切り前にネームだけもらって良いですか?」と編集者が漫画家に言えばそれは、
「締め切り守れよ。落とすなよ。
 先に台詞を写植にだすからな。責任とって原稿あげろよ」
という意味です(一部誇張してます)。
そういうわけで60代くらいの漫画家、編集者、経験者はいまでもコンテっていいます。あ、ちなみにストーリーボードって言い方をする人も見受けられるようになってきました。これまた映画の世界の言葉で、ほぼ絵コンテと同じyと思って良いです。

こんな簡単な用語でも確立、確定されていないんです。ましてや
キャラが起ってる
なんて多くの人が気易く使いますが、含みが多く意味が確定していません。
いろんな漫画家、編集者が「キャラが起ってるってこういう意味だ」と自説を述べてる次第。
こういう現状で「漫画はキャラを起てなきゃ」なんて平気で言う編集者を見ると
「お前の頭は帽子を載っける台かよ?言ってる意味もわからずに言うたぁふてえ野郎だよ」
と、ボクはこっそり思ったりします(一部誇張してます)。

ああ、一応「キャラが起ってる」の出自について触れておきますと、これは小池一夫さんが使い始めた言葉ですね。主に劇画村塾で繰り返し使われて、それが漫画業界全体に広まった。定義が曖昧なので使い勝手が良い言葉なんでしょうね。もう「劇画」って言葉だって通用するかどうかわからなくなってる現在です。

第二に

ストーリーの構成にはかなり論理が入ってくる。
だけどコマ割りは感覚に近い、だから説明が難しい
というのが大方の漫画家の意見でしょう。
ためしに田村由美さんの『BASARA』(1990 小学館)の一コマをあげてみましょう。

『BASARA』より

ご自分で数えてみてほしいけど、この見開きの中にコマはいくつあるでしょう。時間の流れは?吹き出しを読む順番は?人物の視線はどこに向かっているでしょうか?
ものすごく複雑にレイヤー化されたコマたちをびしっとまとめ上げ読ませる。当時の少女漫画の到達点の一つのような複雑なコマ割りです。田村由美さんの豪腕が光ります。
男の漫画家はこういう複雑なコマ割りをしないし、できません。明らかに感覚の違いがあります。もう一つ少女漫画から。

『ストロボ・エッジ』より

咲坂伊緒さん『ストロボ・エッジ』(集英社 2007)。重なり合ったコマがいっぱい出てきます。少女漫画を読み慣れていないとどっちに読んでいけばいいか、道を見失う人もいるかもしれません。時間経過をささやかなコマ割りだけで表現したり、猛烈な技巧がこの中には溢れています。これまた男の漫画家の感覚ではとても組み立てられそうにないコマ割りです。

もう一つ

事態をさらに難しくさせているのは著作権法の問題です。
学術的な解説をするときの引用の範囲、仕方というのが著作権法で決められていますが、それに適っていればいいというものでもありません。
商業目的で技法書を作るのなら、版元や作者に了解をもらうのが仁義みたいなものです。いろんな事例、テクニックを解説しようと思ったらたくさん引用することになりますし、引用が増えるほど了解とる相手が増えてものすごく煩雑になります。
ちなみに上の二点は引用のセーフ例で作者の了解は取らなくても良いレベルです。

さらに加えて

これら三つの理由で、コマ割り、ネーム系の技法書というのは作りにくいのだと思います。
それに加えて「その手の技法書を作ってみよう」と思い立った漫画家をためらわさせるモノがあります。それは、
一人の漫画家が使えるコマ割りの数は多くない
と言うことです。ボクはカチカチとしたスクエアなコマ割りが悪いとは思いません。そういう漫画は読み進めやすいです。しかし読者にも編集者にも
「今時、こんなコマ割りはだっせぇ」
と平気で言っちゃう人がいるんです(いるんです)。
そんなこと思われるのも嫌ですものね。

でも

ボクは長く専門学校などで教えてきてるので
どうにかしてストーリー漫画のコマ割りを教えられないか
と、試行錯誤してきました。そしていつか技法書・教本を作るべきだとも考えてきました。
あれこれ考えたりあちこち当たっているうちに、最近ヒントらしきモノが見つかり始めています。それについてはまた稿を改めて。

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