花散る里の病棟
箒木蓬生氏の新作小説です。以前、敗戦後に捕虜として虐待されることを恐れて任地香港から脱走する日本憲兵の主人公がを描いた『逃亡』と、九州で江戸時代を通じて代々にわたり隠れキリシタンとして生き抜いた人々を描いた『守教』の2作品を読んでお気に入りの作家の一人になっていたので期待して読んでみました。
九州で老人介護施設を併設する町医者を営む主人公。その祖父も明治時代の町医者だったが、医者の不養生で激務の末に早世。祖父の志を継いで苦学して医師となった父は、程なく軍医としてフィリピンに赴くこととなるが、軍医など何の役にも立たぬほど悪化した戦局の中で絶望的な逃避行を経験し、帰国後は戦死した友や上官に思いを致しながら身を粉にして町医者としての生涯を全うする。そして主人公の息子も医師となったが、新型コロナウィルスという未曾有の修羅場を経験する。
四世代それぞれに異なる時代を生きる町医者ファミリーを描いた小説でした。箒木蓬生氏自身も医師であり、小説を通じて医者という職業のリアルを表現しようという試みかと思います。
一つ一つのエピソードには没入できるのですが、世代順ではなく時間が戻ったり進んだりするせいか、全体として一本の物語につながって見えてくる印象が掴みづらく、どこがクライマックスだかよくわからない感じなのが少々残念でした。
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