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「聞き書き」と「西洋占星術」のコンステレーション

熊本で開催された「日本聞き書き学校」に初参加してきた。

「聞き書き」とは、ある方の人生にまつわる思い出話を聞き、それを書き起こし、本の体裁にしてお渡しする活動。

その活動は2010年ごろから始まり、全国各地の医療介護の現場で、ボランティアを中心に行われている。

「日本聞き書き学校」は、2010年のホームホスピス宮崎による宮崎県木城町での初会合をきっかけに、2年に一度、日本各地で聞き書きの勉強会を開催してきたそうだ。

「日本聞き書き学校」は、コロナ禍による休止期間を経て、今年数年ぶりに熊本で開催された。

柳田邦男先生と私を
つなぐ

「日本聞き書き学校」の校長は、作家の柳田邦男さん。

私は、柳田邦男さんの存在を存じ上げてはいたが、著作を読んだことがなかった。柳田さんとのかかわりは、子供の頃にNHKで放送された『マリコ』という柳田さん原作のドラマを見たことがある程度だ。

しかし、せっかくご本人にお会いできるのだから、何か著作を読んでみよう!と検索していたら、

大好きな河合隼雄さんとの共著が何冊かあることに気がついた(「大好き」と言いつつ、河合隼雄さんの本をたいして読んでいない事実が露呈…)。

「聞き書き学校」開催地の熊本に向かう高速バスの中、手に入れた2冊の本を読んでいった。


「日本聞き書き学校」は二日にわたって開催。様々なプログラムのある中、柳田邦男さんの講和や柳田さんの子ども時代の思い出を聞く機会もあった。

戦時中のご家族の話などを柳田さんご本人の口からありありと語っていただいた。そのお話は、「聞き書き」の練習として残す予定だ。


柳田さんは、本が大好きな子どもだったそう。

小学校1年の3学期に、腎盂炎になって3カ月近く休みました。その3カ月は私にとって非常に大きな意味を持ちました。近所に住んでいた女の子の家にたくさん読み物があり、順に貸してくれました。それは『小公子』『小公女』『三銃士』などの少年少女向けの世界名作全集でした。読むということ、活字を拾って物語に沿ってずっと引き込まれ感動したり、どきどきしたりはらはらしたりすることが、誰に教わるともなくできたのです。本が好きになり、物語の世界の醍醐味を知りました。

東京都子ども読書推進フォーラム基調講演 人生を豊かにする読書 柳田邦男氏


「同じだ!」と、思わず共感してしまった。私も本が大好きな子どもだったからだ。

私は、田舎にも街にもなり損ねたような、区画整理された田んぼと団地だけが建つ、文化や歴史の香りがあまりしない無機質な地域に生まれ育った。

自分の中の
一番古い記憶はというと……

4歳くらい?
平日の午前
平屋の団地の家の庭
洗濯物を干す母のそばに立ち
「つまらない」
「ここではないどこかへ行きたい」
と感じたこと(笑)。

そんな私にとって、本を読むことは最高の、そしてもしかしたら唯一の、文化的世界に触れる手立だった。

小さな団地の家には、そのサイズに見合わぬ父の蔵書がたくさんあったけれど、私が読みたいような物語(フィクション)の本はなく。それでも何かを知りたくて、仕方なく父の自然科学系の本をペラペラとめくり、気になるところだけ読んでいた記憶がある。

キリスト教系の幼稚園に通った1年間は、旧約聖書の絵本が毎月一冊配布され、それがとても楽しみだった。新しい絵本をもらうと本当にわくわくして、何度も何度も読み返したように思う。

小学校に入ってからは図書館の本を借りて読みまくった。学校では「1万ページ運動」という読書推進活動をやっていて、早々に1万ページをクリアした気がする。

とにかく活字が、本や雑誌が大好きで、それに関わる仕事がしたかった。親を説得して上京し、就活も頑張って、おおむね夢を叶え楽しく仕事をしていた。

が、

震災後、メディアのあり方に疑問を感じ、また現実から目を背けるような行政のあり方にも憤りを感じ、戦い敗れて疲れ果て、仕事をやめ住む場所を変えた。

柳田邦男さんはNHKの職員だったそうだ。度重なる飛行機事故等の取材を契機に、人を幸福にも不幸にもする文明社会とはなんなのか?と思いをめぐらせ、現実を生きる人のことをもっと深く知り伝えたいと考え、フリーになられたそう。

その後、柳田さんは息子さんの自死と脳死をきっかけに、「魂」の領域のことも表現されるようになった。

私はといえば、長男の半年間の引きこもりを機に、初めての喪失体験を味わった。そしてその期間に西洋占星術にハマり、ホロスコープを読むことで息子や自分、夫を、それまでとは異なる視点で理解するようになり、救われた。

物事を眺める視点を変えられたのは、西洋占星術のおかげであり、なによりも息子のおかげだと思っている。

柳田先生と自分を横並びにするつもりはないけれど、活字に支えられ、社会に疑問を感じ、家族に新しい扉を開けてもらった同じ感覚を持つ者として、これからも柳田先生同様に、言葉をつかった何かに取り組んでいきたいと思う。


星と星がつながって
今日になる


私が「聞き書き」のことを知り、今回のような機会を得られたのは、宮崎で「聞き書き」や「看取り」の活動をされている「ホームホスピス宮崎」のおかげだ。

この団体を知ったのは、たまたま家の近くに「かあさんの家」というのがあり、「これはなんだろう?」と気になって調べたことがきっかけだ。

あの時、「かあさんの家」の前を通らなければ、看板に立ち止まらなければ、なんだろう?と調べなければ、

こうして柳田さんのお話に感銘を受けたり共感したりすることもなかっただろう。

何気ない「!」が点になり、やがて点と点とがつながって、「めぐりめぐって今がある」と感じる瞬間が、たまらなく好きだ。

そんな予期せぬつながりの発見や、自分の物語の展開が面白くて生きているような気もする。


柳田邦男さんは講和の中で、ユング心理学の理論である「コンステレーション」を引用してくださった。

布置 (constellation)

個人の精神が困難な状態に直面したり、発達の過程において重要な局面に出逢ったとき、個人の心の内的世界における問題のありようと対応するように、外的世界の事物や事象が、ある特定の配置を持って現れてくること。
共時性の現れ。

元来占星術において、出来事や人の運命を左右する星の位置を意味するもの。星座を表す。

臨床心理学用語辞典


ユングは西洋占星術を研究していた。
私も同じく西洋占星術を研究中だ。

柳田先生〜ユング〜わたしと、つながってしまった!と嬉しくなった。

人は自分の物語を紡ぎ
誰かとつながりたい



人は、自分オリジナルの物語を作り上げ、それを誰かに知ってほしいのだと思う。

古代から人類が空の星を見て、星座というものを作り出し、その星々の物語を紡いだように、

自分の人生の出来事をつないで、誰かに語り継ぎたいのだと思う。

そんな、固有の物語を聞かせてもらい、整理して本の形にして書き残すのが「聞き書き」だ。

そして時に、本人すらよくわからなくなってしまった人生という物語の解読を試みるのが、占星術なのだと思う。

「聞き書き」と「西洋占星術」。

2つの星をつないで、わたしは誰かの物語に出会いたいと思う。

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