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分かった気になれる損保会計⑤(事業費)

(Twitterはこちら → @yanagi_092)
対象:損害保険会社の決算を、手軽に理解したい人

これまで、保険引受利益の主要項目である「①既経過保険料」と「②発生保険金」について説明しました。今回は、最後の主要項目である「③事業費」について触れたいと思います。

特に、従業員にとって最重要項目である人件費も「③事業費」に含まれていますので、本稿だけでも良いので是非ご覧いただきたいと思います。

なお、以下のnoteでは、東京海上の事例を用いて損害保険会社における人件費削減トレンドの分析をしていますので、今回のnoteと併せてご覧いただければと思います。


事業費の構成要素

事業費は「1.物件費」「2.人件費」「3.代理店手数料(代手)」「4.その他税金等」から構成されており、図示すると以下のようになります。


1.物件費

イメージしやすい項目であり、特に説明は不要かもしれません。なお、IT関係の費用は、原則的に物件費に入っています。近年では、DX関連の支出が増えていますので、物件費は増加傾向にあります。

また、広告宣伝費もこの物件費に入っているのですが、直近では、東京海上が大量に費消していた「オリンピック・パラリンピック」に関する経費(←経営企画部主導の無駄遣い)も、この物件費に分類されています。


2.人件費

従業員の方に注目いただきたい項目です。上段リンク先で人件費分析をしていますが、近年の損害保険会社においては強烈な人件費の削減が強硬されており、人事部の下請け機関と化している労働組合もこの点は知らんぷりです(笑)

(ご参考)なぜ日本の労働組合は御用組合となってしまうのか


3.代理店手数料(代手)

保険契約に係る代理店手数料は、事業費に含まれています。そして、1990年代後半の保険自由化以降、代理店手数料は増加を続けており歯止めが効かない状況にあります。

ここで、損害保険会社の収益構造を確認しますと、自動車保険を中心としたリテールビジネスが収益の大半を占めている状況にあります。そして、リテールビジネスを構成する個人向けの自動車保険、火災保険、および傷害保険に関して、各社の商品内容に大きな差異はありません。

更に、代理店の統廃合による大型化、発言力の増大化といった影響もあり、損保各社は代理店手数料の価格競争にならざるを得ない、といった背景もあると考えられます。

一部の脳筋営業社員は「代理店さんをしっかり握っておかないから、代理店手数料勝負になってしまうんだ!」等の体育会系のノリでドヤ顔をしていますが、全体のトレンドとして代理店手数料の増加が止まらない背景を考察することも重要ではないでしょうか。


4.その他税金等

細かな税金の解説は省略しますが、会社に対する税の原則は利益課税の「法人税」です。利益課税とは、会社の利益に対して一定の税金が課されるものであり、税引後当期純利益の「税引」とは法人税を指しています。

しかし、法人税以外にも、利益とは関係のない細かな税金が多数あります。例えば、固定資産税、消費税、印紙税等が挙げられ、これらは「その他税金等」の名目で一括りにしています。

いずれにせよ、金額規模も大きくないので「法人税以外のミニ税法がまとまっている」くらいの理解で良いと思います。


保険引受利益を伸ばすには?

以上で、保険引受利益を構成する3要素(①既経過保険料、②発生保険金、③事業費)についての説明は終わりました。この3要素を踏まえ、保険引受利益を伸ばすにはどうしたら良いでしょうか。

まず、「①既経過保険料」については、縮小市場におけるパイの奪い合いをしている状況ですので、マーケットシェアを維持するだけでも大変な状況です。

次に、「②発生保険金」については、これ以上削減するにも限界があります。なお、自動運転で自動車事故は減るでしょうが、その分だけ保険料の値下げ圧力が強まるので、収益への影響という意味では、「②発生保険金」の減少以上に「①既経過保険料」の減少の方が大きくなってしまう可能性があります。

そうすると、保険引受利益を手っ取り早く伸ばしていくには、「③事業費」を削減するしかありません。

そして、事業費のうち、どの項目に削減余地があるでしょうか。そう、人件費です。(下図のとおり)

このような背景から、事業費のうち、特に人件費を狙い撃ちしている訳ですね。表向きは「女性の活躍推進」や「生産性の向上によるやりがいUP」と言っていますが、要は事業費の構成要素である人件費の削減に過ぎません。

それでは、なぜ人件費が狙い撃ちされるのでしょうか。これは「従業員が辞めない。特にある程度の年齢を重ねると辞められない、転職先が無い」といった事情も、大きく寄与していると考えられます。

このような会社側の給与削減圧力に対抗するには、御用組合に任せたところで何も解決しません。辞めることを推奨している訳ではありませんが、日本型の御用組合が機能していない状況を踏まえると、従業員自らが人材の流動性を高めていくしかなく、実際に若手社員の離職率は高まっているようですね。


今回はこれで以上です。これで保険引受利益における主要な3項目の説明が終わりましので、次回は「コンバインド・レシオ」および「E/I、W/Pって何?」という点について解説したいと思います。

(続く)

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