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2023年上半期映画ベスト10

 嬉しいことに、映画館にも以前に近い活気が戻ってきましたね。そんな2023年上半期に公開された映画の中から、個人的なベストを10作品選びました。以下、鑑賞時期順です。また、試写会で観た作品も含むので、劇場公開時期と順番がズレている場合/7月以降の公開作もあります。ご了承ください。


コンパートメントNo.6(2/10公開)

 2023/2/10(金)に新宿シネマカリテで公開になってから、6月現在も国内の映画館で上映されているロングラン大ヒット作。感想文を以前書きましたので、ぜひどうぞ。


幻滅(4/14公開)

 19世紀フランスの文豪、オノレ・ド・バルザック著『人間喜劇』の一編『幻滅—メディア戦記』が映画化された作品。149分という長尺で、田舎出身の詩人・リュシアンがパリへ出て来てマスメディアの渦の中に揉まれて行く……という栄枯衰退盛者必衰を描いています。
 ストーリーの軸の一つ、リュシアンと女性たちの恋模様には全く関心が持てなかったのですが(私の好みの話です)、1820年代の華やかなパリで繰り広げられるメディア戦略、ステルスマーケティングやフェイクニュースの描写が本当に面白かったです。
 この映画を観た後に、ちょうど同じ時期のパリが舞台のミステリー小説『鏡の迷宮』を読みまして、その際に作中の雰囲気の理解度を引き上げてくれた映画だな~と思いました。


アダマン号に乗って(4/28公開)

 セーヌ川に浮かぶ船、アダマン号というデイケアセンターを舞台にしたドキュメンタリー映画。
 鑑賞時、私はこの映画があまりに自然に「人生の交差点」を映し出しているのに感動しました。この手の映画にある、「障害のない側から障害のある側に対する理想の押し付け」や「映画製作陣から観客に対する正義の押し付け」といったものが一つも感じられなかったからです。
 妙に美化されることもなければ、説教じみた筋書きもない。デイケアセンターの利用者・職員それぞれの人生が静かに交わる場所。その空気の中にカメラが入り込んだという奇跡を、味わえる映画です。


ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3(5/3公開)

 大量供給が続くMCU、2023年2月には『アントマン&ワスプ:クアントマニア』も公開されていましたね。
 本作は、ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーシリーズの最終章ということでかなり注目度が高かったと思いますが、その注目と期待を悠々と超える素晴らしい内容だったと思います。
 個人的には、開幕でRadioheadの“Creep”が流れてきた瞬間、「名作だ……」ってなりました。


テノール! 人生はハーモニー(6/9公開)

 フランスの本気を余すところなく見せ付ける音楽映画……と言っても過言ではないのでは? ラッパーの青年がお寿司の出前をきっかけにオペラの才能を見出され、兄や友人たちに内緒で音楽クラスに入学するが……というお話。
 所謂成り上がり系ストーリーで、労働者階級の主人公と音楽クラスのエリートとの格差を思い知ったり、愛や友情や家族との絆を得る、という王道な要素も抑えています。そして何より、オペラ座・ガルニエ宮を舞台にした時の華やかな景色! 圧倒されました。パリってすごい所だな……。
 そしてなんとなく、現代版『オペラ座の怪人』を思わせるところもありました。実際に映画を観て、どんなところがそうなのかな? と探してみるのも楽しいかもしれません。


⻘いカフタンの仕立て屋(6/19公開)

 上映時間122分、モロッコの海沿いの街に暮らす仕立屋さんを舞台にした、ごくごく普通の生活を綴った作品。それなのに、122分間飽きることなく惹き付けられて、あまりに良すぎて鑑賞後しばらく呆然としていました。
 モロッコの伝統的な衣装、カフタンの色鮮やかな布地、華やかな刺繍、それを生み出す職人の静かな仕事……。時代は手縫いからミシンに移行している、そんな時代遅れな主人公の職場で繰り広げられる人生模様。
 それがあまりに繊細で、台詞や大袈裟な身振り手振りではなく、ちょっとした瞬間の表情や視線の動き、息遣いや指先の動きで表現されているのが、本当に美しかったです。


プチ・ニコラ パリがくれた幸せ(6/9公開)

 フランスで愛され続ける児童書、『プチ・二コラ』の2人の原作者の人生を、二コラの物語と共に辿る名作。何と言うか、観れば絶対満足度が高い作品だと思うのですが、『プチ・二コラ』を知らないとなかなかアンテナに引っかからない・鑑賞候補に上がらない作品かもしれませんね。
 でも、本当にいい映画なんです。以前感想文を書いたので置いておきます。


劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE(5/12公開)

 大人気SFアニメ、『PSYCHO-PASS サイコパス』の10周年プロジェクトのメインを張る記念すべき映画です。これまでTVで放送された1期~3期や映画館上映された『劇場版 PSYCHO-PASS』『PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System(以下、SS)』の内容を踏まえ、上手い具合に織り交ぜた作品に仕上がっていました。
 個人的には、3期に登場した慎導灼と炯・ミハイル・イグナトフがTVアニメ時点ではあまり印象に残らなかったのですが、この映画を観て彼らにもドラマを感じることが出来たのはとてもよかったです。

 私は、登場人物の一人須郷徹平が大好きなので、彼に特化した感想文を一本したためています。(結局本作は劇場で2度見ました。)

 もちろん、他にも見所はたくさんあります。『PSYCHO-PASS サイコパス』の長年のファンの満足度はかなり高いのでは? 若干既視感のある要素はありつつも、それを上回るよさの多い映画でした。


スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース(6/16公開)

 前作『スパイダーマン:スパイダーバース』が、映像も音楽もストーリーも大好きだったので、かなり期待して鑑賞した映画です。
 映像は前作以上に好きでした。アメコミっぽさだけでなく、油絵風な質感をはじめとする色んな表現法が使われていて目が飽きなかったです。ストーリーは、まさかの続き物だった分、一話完結の前作にあった最大の盛り上がり・カタルシスがなかった点は少し残念でした。でも、これからも見続けたい映画であることに変わりはありません。
 音楽好きにはたまらないキャラクターの背景、設定の仲間がいたのもニヤニヤしてしまいました。続編、早く観たいです。


大いなる自由(7/7公開)

 いや……この映画は本当にすごい。鑑賞直後の感想はまさにこれ。
 なにこれ、本当にすごい。
 ラストの場面、多分いきなり出されたら「なんで?」ってなると戸惑うと思うのですが、約2時間をかけて主人公・ハンスの20年間を見て来た流れで目にすると納得感があります。上記サムネの画像はポスターやキービジュアルでもよく見かけて印象深かったんですが、作中で「こんな場面だったの……」と呆然としました。
 ご都合主義やみんなが見たいだけの描写に終始するのではなく、真摯に一人の男の人生を描いていると感じました。決して明るい映画ではありませんが、本当に素晴らしい作品。


 今年も良い映画がたくさんで楽しいです。下半期も、早く観たいな! と公開を待ちわびている作品が色々あるので、元気に観賞していこうと思います。



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© 2023 Aki Yamukai

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矢向 亜紀 / やむかい あき
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