誰におすすめしたらいいかわからないけど誰かにおすすめしたい映画たち
好きな映画があります。でも、万人受けするわけではないのは薄っすら気付いています。でも、好きなのです。
そこで今回は、そんな「誰におすすめしたらいいかわからないけど誰かにおすすめしたい映画」を独り言のようにまとめておくことにしました。(以下、順不同)
1.最後にして最初の人類
2018年2月9日に亡くなった作曲家、ヨハン・ヨハンソンによる最後の作品。そして、ナレーションはティルダ・スウィントン(『ナルニア国物語』や『コンスタンティン』『ザ・キラー』に出演)。そして"今まで知らなかった大きなモニュメントが見られる”ということもあり、私個人としてはかなりアツい要素満載の映画です。
作中では、静かなティルダ・スウィントンのナレーション「20億年後の人類からのメッセージ」以外に人の気配は感じられず、様々な<スポメニック>の姿がひたすら流れ続けます。
私は、この映画を公開開始から3週間後くらいに鑑賞しました。なので、スクリーンは小さいしお客さんの数もまばら。そんな中で、ヨハン・ヨハンソンの音楽に合わせて流れる<スポメニック>とティルダ・スウィントンの声……。(予告編のテンションでずっと進みます。)
※スポメニックとはこんな感じの建造物です👇
こうなると、段々不思議な気持ちになって来ます。
確かに自分は今映画を観ているのだけれど、もしかしたら本当にこの映画館を除く世界は終末を向かえていて、偶然生き延びた私たちだけがこの映像を見ているのかもしれない……。そんな気持ちに。
本編は71分と映画としては短い方ですが、見終わってから呆然としてしまいました。世界観に引き込まれるし、自分も次第にコンクリート製の何かに変わったような重みを覚える映画でした。
この鑑賞時の体験も含めて印象に残っています。
※余談ですが、こちらの映画を影響を受けて出来上がったのが、拙作の中編SF『やさしい崩壊』でした。
※追記:2024/6/10に原作小説が改訳文庫化して発売!嬉しいですね。
2.アノマリサ
この映画については、何と申し上げればいいのか……。
私は、本作の監督・脚本を担当するチャーリー・カウフマンの作品の大大大大大ファンです。彼の作品について書くだけで1つエッセイが出来そうだったんですが、ぐっと堪えました。
なぜなら、チャーリー・カウフマンには『マルコヴィッチの穴』『エターナル・サンシャイン』という、「とりあえず“この作品の脚本家だよ”と言えば丸く収まる作品」があるからです。(でもこの2作品とも脳みそ映画なので、一筋縄ではいかないと私は思っています。そこがいいんだ。)
そこへ来て今回ご紹介するのが、『アノマリサ』。本作はAmazonプライムで配信されていた映画で、私にとって『脳内ニューヨーク』以来のチャーリー・カウフマン作品でした。
本作はストップモーション・アニメ。ミニチュアを使って撮影されています。正直に言ってしまうと、「せっかくの新作なのに、実写じゃないんか……」とちょっぴり残念に思ったのは事実です。
なぜなら、チャーリー・カウフマンの作品は役者陣の使い方が独特だから。
『マルコヴィッチの穴』では、超絶美人のキャメロン・ディアスがぼさぼさ髪の冴えない役回りで登場します。『エターナル・サンシャイン』では、コメディーのイメージが強かったジム・キャリーを無口な青年役で起用しました。
こうした面白味が楽しみだったので、『アノマリサ』はなんでストップモーション・アニメなのかな……なんて思いながら見たのですが……。
いやいや、これストップモーション・アニメじゃなきゃできない映画だ。
淡々と日々をやり過ごすマイケルと、彼がようやく見つけた特別な女性・リサ。マイケルの孤独さと絶望、マイケルから見たリサの輝きを表現するには、こうするしかなかったんだ……。
私がチャーリー・カウフマンの作品を好きな一番の理由は、「突飛なようでいて理屈が通っている(ただしその理屈が我々に分かるかは問わない)」から。この作品の描写の方法も、まさにその通りだなと思った次第です。
それにしても、どうして私はミニチュア人間でこんな丁寧に描写されたあの場面を見せつけられているんだ?? (本作はR15です。)
なんかこう、本当にとんでもない映画でした。
3.メドゥーサ デラックス
人気の映画製作・配給会社A24が北米配給権を獲得したことでも話題になった本作。美しいヘアスタイルと正反対の舞台裏の雑多で殺伐とした景色、夜の暗闇とネオンカラーの光との対比、上映時間101分のワンショット撮影……。映像の力に圧倒される映画です。
もちろん、見た目がいいだけではありません。
名探偵が居る訳でもないヘアコンテストの舞台裏で起きた悲劇。それをきっかけに渦を巻く、美容師とヘアモデル、コンテストの主催者やその恋人、現場の警備員などを巻き込んだ人間関係に飲み込まれる緊張感……。
結末に至るまでの疑心暗鬼、それぞれが抱える問題や思惑などが明らかになる様子が妙にリアルでザラザラ・ヒリヒリしているのが本当に引き込まれます。
単純に「女性が多い職場だからね」なんて鼻で笑うのはナンセンス。登場人物の中に本質的にあるのは“美を追い求める貪欲さ”なのかもしれませんが、その過程は決して美しく崇高なものではなく、非常に人間的。
こ、こんなのみんな好きじゃん!! と思ったのですが、映画レビューアプリを見たら結構好みが分かれる作品のようですね。私みたいなハマる人もいれば、厳しめな評価の人も多いようで。
いわゆる「推理モノ」ではないので、その点に期待していた人は不満を覚えたかもしれません。私はなんとなく、本作を人間模様を描く作品だと思っていたので特に違和感はありませんでした。
だけど、それにしたってなんで最後の場面がこうなるんだ。
終わり方、最高にいい。だけどやっぱり、誰におすすめしたらいいのかわからない。
※本作は、私の2023年映画ベスト10に入っています。
4.地下室のヘンな穴
本作については、あまりに思いが昂ったので単独で記事を書いています。こちらご参照ください。
誰におすすめしたらいいかわからないけど誰かにおすすめしたい映画、まだまだあるような気がしますが今回はこの辺りで。
もしかしたらこの中のどれかが、あなたの心に驚くほど響くかもしれません。
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2023年上半期映画ベスト10はこちら。
その他、矢向の映画感想文はこちら。
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