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2024年上半期映画ベスト10

 大作がたくさん上映された2024年上半期。この時期に公開された映画の中から、個人的なベストを10作品選びました。(以下、鑑賞順です。)


カラフルな魔女~角野栄子の物語が生まれる暮らし~

👆本記事作成時点ではKADOKAWAのホームページが緊急メンテナンス中のため、映画公式ページではなく書籍のリンクを貼っています。

 児童文学の金字塔『魔女の宅急便』の原作者を特集したNHKの番組の映画化作品です。
 当時88歳の彼女の、執筆と可愛い家と心地よい友人関係と健康的な食生活。これを実現するには才能・名声・富が土台に必要なので、全部を真似するのは難易度が高いです(多くの88歳は現役を引退していることが多いでしょうし……)。

 それでも、彼女の無理のない茶目っ気や相手への優しい視線、お手軽に作れるおいしいものを毎日モリモリ食べ、好きなようにお洒落を楽しむ心意気は自分も持ち合わせていたいなと思いました。だってその方が楽しそうだから。


Firebird ファイアバード

 舞台はソ連占領下のエストニア、セルゲイのモデルになった俳優の回顧録が元になった映画という少し珍しい背景がある映画です。

 内容は結構王道の悲恋もので、大どんでん返し! とかスリリングなサスペンスが云々……というものではありません。だけど、その「王道悲恋もの」を演じるメイン二人の緊張感と愛情がとてもヒリヒリして、目が離せませんでした。

 劇中では、男性同士の恋愛を禁止する法律・刑法121条が有効。法律と同性愛を扱う映画と言えばドイツの『大いなる自由』イタリアの『蟻の王』アメリカの『チョコレートドーナツ』が思い浮かぶ人も多いのでは。

 私個人としては、人間が誰を愛するのか法律が決めるなんてふざけてるなと思います。一方で、法律だけが変わっても人の中にある偏見はすぐには消えないだろうなあとも。でも、やっぱりこういう映画を観ると「当たり前の愛情が当たり前に存在できない今の世界」っておかしいよなと感じます。(そうやって思いながら、「同性愛が禁忌であるという要素が観客の感情を揺さぶる同性愛映画を見ている自分」に戸惑うこともあります。)

 それらを踏まえて、本編終了後に流れるエンドロールの絶望感はとんでもなかったです。時間が経てば必ず人・社会は進歩するなんて夢物語だったんだな、と……。

※円盤は2024/11/2に発売予定です👇

※追記:舞台化されるとのこと!


落下の解剖学

 雪山の山荘で暮らす三人と犬一匹の家族。落下死していた夫を発見したのは視覚障害がある長男で……。という、法廷・スリラー映画。
 第76回カンヌ国際映画祭で最高賞・パルムドールを受賞し、更に出演した犬のメッシはカンヌ国際映画祭で優れた演技を披露した犬に贈られるパルム・ドッグ賞を受賞して話題になりました。

 以前、こちらの感想文で長々と語ってしまったほど大好きな映画です👇

 2024/9/3にDVD/Blu-rayがリリースされるとのこと。嬉しいですね


関心領域

「アウシュビッツ収容所隣で幸せに暮らす家族がいた」
 という背筋が凍るキャッチコピーと、あまりに美しく清々しい庭や森の光景のギャップが目を引く作品です。
 
第76回カンヌ国際映画祭でグランプリ、英国アカデミー賞、ロサンゼルス映画批評家協会賞、トロント映画批評家協会賞、更に第96回アカデミー賞で国際長編映画賞・音響賞というとんでもない受賞歴にも納得。

 映画の感想文で、こちらもあれこれ書いています👇

 原作小説も併せて、生涯を通して忘れられない作品になりそうです。


異人たち

 日本ではBBCドラマ『シャーロック』のモリアーティ役のイメージが強いだろう、アンドリュー・スコットの主演作。山田太一の著作『異人たちとの夏』が原作ですが、舞台は現代のロンドン。
 監督が幼少期を過ごした家で撮影しているなど、私の目から見ると、(いい意味で)監督自身がこの映画の製作を通して心を癒した・慰めたんじゃないかな? と感じる空気感がありました。
 メインの登場人物は四人だけ、派手な映画ではないのだけれどずっと飽きずに惹き付けられた作品でした。


マッドマックス:フュリオサ

 大人気シリーズ『マッドマックス』の最新作で、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』でシャリーズ・シェロンが演じていた人気キャラクター・フュリオサの若かりし頃をアニャ・テイラー=ジョイが演じた作品です。

 私は有難いことに、Dolby Atmos版をグランドシネマサンシャイン池袋のめっちゃ音がいいスクリーンで鑑賞する機会を頂きました。
 なんかもう、うるせえうるせえ(褒め言葉)!!!
 一生分のエンジン音・モーター音・騒音を聴いた気持ちになる映画体験。迫力満点でした。ストーリーが単純だったり、一つ一つのアクションが長く感じたりすることはありましたが、その全てをひっくり返すアニャ・テイラー=ジョイの目力とアクションシーン。人生にはこういう映画が必要な瞬間があります。


ナショナル・シアター・ライブ『ワーニャ』

 アンドリュー・スコットによる一人芝居(の録画を映画館で観られる作品)。八人の役をシームレスに演じ分け、時にはラブシーンでさえも一人で見事に表現する彼の役者魂とスキルの高さに脱帽しました。

 原作はチェーホフの『ワ―ニャ叔父さん』。複雑な人間関係とロシア文学特有のあだ名多すぎ・変わり過ぎ問題はありますが、そこまで混乱せずに楽しめました。

 ナショナル・シアター・ライブって何? という方や、どの演目を鑑賞しようかお悩みの方向けに、いくつかエッセイを公開しています。よろしければ是非。


チャレンジャーズ

 映画『スパイダーマン』シリーズ『デューン 砂の惑星』でお馴染み、ゼンデイヤが主演を務めるテニス映画。

“二人の男を愛する/愛される元カリスマ的テニスプレイヤー・タシ”という役柄は、ゼンデイヤが演じるからこそ説得力があったと言えるでしょう。劇中でも「みんな君に恋をするよ」と言われていましたが、本当にそう。パワフルなテニスプレイ、美貌、知的だけど茶目っ気があり、欲望に忠実だが余裕がある……。私も映画を観ながら、タシに思いを寄せていたと思います。

 この映画を観て、テニスの世界にも音楽で言うインディーズとかメジャーとか、売れっ子とか長年やっても芽が出ないとかいう概念があるんだな……ってことを実感しました。どの世界にもあるんだな、そりゃそうだ……。

 テクノを効果的に使った音楽も面白くて、普段まったくスポーツに触れていない私でもテニスシーンに引き込まれました。映像表現もあわせてかなりクセがあるのですが、なかなか興味深かったです。


ハロルド・フライのまさかの旅立ち

 イギリスの小説『ハロルド・フライの思いもよらない巡礼の旅』が原作の映画で、原作小説は映画公開に合わせて題名・表紙を変えて2024/5/15に再版されています。

 おじいさんが少し(かなり)不便な方法で旅に出る映画と言ってパッと浮かぶのは、アルゼンチンからポーランドまでおじいさんが旅に出る『家へ帰ろう』やローカルバスのフリーパスを利用しておじいさんがイギリスを縦断する『君を想い、バスに乗る』。どちらも好きな映画です。

『ハロルド・フライのまさかの旅立ち』は、同じくイギリス映画の『君を想い、バスに乗る』といくつか重なる要素(ネタバレになるので伏せます)があるので、イギリスってそういう映画が好きなのかもしれません。

 本作、主人公はひたすら歩いているハロルド・フライなのですが、彼の突然の旅立ちに戸惑い苛立つ奥さん・モーリーンに私はかなり注目していました。
 死期迫る旧友とは言え女性に会いにいきなり家を出て行った夫の帰りを待ちながら、それまであまり接して来なかった(むしろ避けてきた?)近隣住民と接し、ハロルドやこれまでの人生に思いを馳せるモーリーン。モーリーンにとってもある意味で旅の終わりである映画の結末はとても優しくて不器用で美しくて、とても好きでした。

 また、私はシニアが主演の作品が好きで、以前シニアが活躍する本に焦点を当てたエッセイを書いています。シニアが題材の物語にご興味あれば、こちらもぜひどうぞ。


ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ

 1970年、ボストン近郊にある名門バートン校のクリスマス休暇。様々な理由で学校に残ることになった登場人物たちの、心が温まったりハラハラしたりする、だけど優しい映画です。

 望まない状況でクリスマス休暇の寮に残された、嫌われ者の教師・複雑な家庭環境の高校生・息子を亡くしたばかりの料理長というまったくかみ合わないトリオ。それぞれが孤独感や辛さを抱えていて、次第に距離感が縮まる様子がとても自然でした。劇的な展開になる訳でもなく、「ちょっとしたことだけど本人にとっては大切なこと」の積み重なりで関係が出来上がっていく機微がとても繊細で、心がぎゅっとなる場面が多かったです。

 観賞する側も、三人のうち誰かしらに感情移入出来るし反発を覚えるし、同情したり反論したくなったりと、気付けば彼らと一緒にホリディを過ごした気分になれる作品。日本では梅雨の始まりに公開となりましたが、冬にもう一度見たくなりそうな映画です。



 2024年上半期も良い映画がたくさんで楽しかったです。下半期も公開を待ちわびている作品が色々あるので、元気に観賞出来たらいいなと思っています。

【おまけ】矢向の2023年の映画ベスト10



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その他、矢向の映画感想文はこちら。

矢向の色んなベストはこちら。

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© 2024 Aki Yamukai

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