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クズ男とド根性女の維新史
松平すゞ・語り書き、桑原恭子・構成『松平三代の女』(風媒社、1994年)
明治維新によって禄を失った尾張藩の高位直参が、その救いがたい愚昧さから世の変化に背を向け御大尽生活を改めなかった結果、3人の娘を売り飛ばし(!)、さらに他家に嫁いだ娘までも売り飛ばし(!!)、何もかも失い浮浪者に成り果てた末、困り果てて、こともあろうにかつて自ら売り飛ばした娘のもとに助けを求める。なんというやつだ。並べてみると『罪と罰』のヒロイン・ソーニャのアル中ダメオヤジ・マルメラードフでさえ慈父とみまごうクズ男。しかもこちらは実話である。これだけでも読む価値のある維新の社会史だ。しかしこの本の本当に凄いところは、愚かな男たちに翻弄される女たちの運命の不条理さ、すさまじさ、したたかさ。よくもまあ生き抜いた。えらい!すごい!
しかもこれを書き終えた時、このバカ殿の孫娘に当たるすゞさんは72歳だった。元の原稿は1,000枚もあったという。72歳ですよ!それが1963年。亡くなったのが1972年。この本も30年前に世に出た。
いかに女性が人間扱いされていなかったか。人気絶頂のNHK朝ドラ『虎に翼』のテーマにも近いが、いや、それどころではない歴史の証言でありました。実に面白かった。
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先日たまたま立ち寄った古書店「書物の森」兼出版社『人間社』(名古屋市中区今池)で書棚を眺めていて見つけた本。店主の高橋正義さんとは以前、お会いしたことがあったけれど、氏の店であることをうっかり忘れてカウンターに支払いに行き、そこで思い出した。「この本いただきたいのですが、値付けされていないようですね」「ああいや、値段のない本は、もとの値段で販売しているのです」とのお返事。古書店はいろいろ回ったけれど、こういうのは初めてだった。恐らく煩雑さゆえ値付け作業を放棄したのでもあろうか。ともかく、私がへえという顔をして本の背表紙の値段を見ていると、そこで「ややや、これはこれは。お久しぶりです」とあいさつをいただいて、やっとご本人と気が付いた。年はとりたくないね。すこし世間話をして店を後にしました。