ある出来事の影響と対応の物語
11月2日(火)、ナラティブ実践協働研究センター(NPACC)が定期的に開催しているオンライン講座「カウンセリング・トレーニングコース」(OCTC)に参加しました。2020年6月にはじまって、35回目。今回の話題は「影響焦点型の質問」と「対応焦点型の質問」。
この講座では、David Pare の「The Practice of Collaborative Counseling and Psychotherapy」を読み進めながら、相手との対話を通じて新しい意味づけや物語が生まれる可能性について学んでいます。
影響焦点型の質問について
ある人から「身の上に起きた出来事」の話を聞くようなときに、聞き手である私たちは、その出来事が「話し手にどのような影響を及ぼしているのか」に関心をもって、そのことを質問したいと思うことがあります。
たとえば、「そのことがあなたに起こったとき、あなたはどのようなことを思われたのでしょうか?」「その出来事から、あなたはどのような影響を受けたのでしょうか?」というように。
Pare は、このような、ある出来事が話し手の人生にどのような影響を及ぼしたかを尋ねる「影響焦点型の質問」には、いくつかの働きがあると述べています。私なりにまとめてみると…
このようなはたらきは、聞き手が話の内容を誤解したり・分かったつもりで済ませてしまうことを避けるためにはとても大切であると言うことができそうです。
しかし、このような影響焦点型の質問のみを続けてしまうと、話し手のことを、ある出来事による影響を受動的に受け取るだけの存在として、その人の限られた側面のみしか捉えることができないこともありそうです。
たとえば、その出来事が話し手にとって困りごとであるような場合には、そのことに被害を受けているだけの「受動的な犠牲者」としての側面しか見えてこないかも知れません。
対応焦点型の質問について
Foucault が言うように、私たちは、私たちの身の上に起こる出来事に対して、もしそれが私たちの人生に立ちはだかるような大きな試練となるものであっても、その試練になんとか対応していこうとする存在であるように思います。
ですので、ある人に起こった出来事についての話を聞くときに、そのことから受動的に影響を受け取たという経験だけではなく、そのことに対してどのように能動的に対応したのだろうということも聞くことができるはずです。
たとえば、「その出来事のあと、あなたはどうされたのですか?」「その出来事について、あなたはどのように理解されたのですか?」というように。
出来事が、ある人にとっての大きな困りごとであるような場合には、もしかすると、そのことに対してなんとか対応できたこと・抵抗できたことは、表に現れにくいものであったり、その人自身も気が付きにくいことかも知れません。
誰かが差別的な冗談を言ったようなときに、「そんなことを言うなよ」とはっきりと言葉に出すことはためらわれて、その代わりに、せめて同調だけはしたくないと思って「そっと顔をしかめる」というような、表面的にはささやかではあるが心には断固とした抵抗の決意があるときのように。
Pare は、このような話し手の語りのなかで表面に現れにくい対応・抵抗について、丁寧に「対応焦点型の質問」を続けることで、その現れを捉えようとすることの大切さについて、繰り返し述べているように思います。
対応焦点型の質問を穏やかに・根気強く続けることは、話し手が「自分はその困難に対応できた・抵抗できたこともあるんだ」ということを思い出したり・気付いたりすることを通して、状況を変化させるために役立ちそうなことを見つけるときの助けにもなるのだと思います。
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今回の講座では、ある出来事の影響と対応の物語にバランスよく耳を傾けるためには、影響焦点型と対応焦点型、2種類の質問を適切に用いることが大切だということを学んだように思います。