【第4回】文化の闇鍋会レポート『ファンダムエコノミー入門』
皆さんこんにちは!
立教大学大学院社会学研究科、小泉ゼミ所属の修士1年の齋藤です。
2022年11月30日、第4回『文化の闇鍋会』が開催されました。
とうとう冬も本番が近づき、研究室も寒く感じられる季節になってきました…。
今回の企画運営担当は、小泉ゼミ所属修士2年のシュキさん。
コクヨ野外学習センター編、『ファンダムエコノミー入門 BTSから、クリエイターエコノミー、メタバースまで』(黒鳥社、2022)を読み、議論しました。
本書は、「ファンダム(=熱狂的なファン集団やその文化)」研究の第一人者であるヘンリー・ジェンキンズをはじめとした、「ファンダムエコノミー」の専門家によって書かれた一冊となっています。
副題にもあるように、BTSのファンクラブである「ARMY」を代表するような、熱狂的なファンダムの形成は近年大きな力を持っています。本書でも、ファンダムがただ消費者としてコンテンツを享受するだけでなく、ファン同士で連帯し参加者として行動を起こしていることが例として挙げられています。
このことは、ヘンリー・ジェンキンズが提示した「コンヴァージェンス・カルチャー」の概念からも指摘されており、ファンダムの持つ集合的知性とその伝播力はおきな流れとなって「参加型文化」の確立に寄与しています。
今回の闇鍋会では、現在ファンダム研究を行うシュキさんの「中国におけるファンダム文化」に関する研究テーマと本書の内容から見えてきた、「政治とファンダム」の関係性について考える時間になりました。ファンダムと政治は果たして繋がっているのか?ファン活動は政治活動やアクティビズムに寄与するのか?日本において/中国においての文化と政治の関係とは?…など、普段とは違う側面から文化を捉えることで議論の点も多く上がりました。
例えば、中国内でのファンダムにおける「通報システム」の仕組みを検討してみると、システムを通じてファン同士の対立が起きていたり、コミュニティ内で政治性が生まれているそうです。この事例から、コミュニティ内部での規範づくりに関して議論が展開しました。ファンダム内部の規範を作るには、ファン同士の了解を得た上で決めていくことが必要です。これはファンダムが公権力が介入しないコミュニティであるということ、よってトップダウン性が弱いという側面も挙げられます。つまり、通報システムの判断基準となる「何がダメなのか?どの境界を超えたら通報するのか?」というラインを設定するためには、ファンダムの「集合知」のもとで考えられなければなりません。
また、他のコミュニティとは違う「ファンダム」の持つ特異性に関しても意見が挙げられました。インターネット上の匿名掲示板などでの人々の交流やコミュニティとは違い、ファンダムは「同じもの(人)を推している」という点によって大きく支えられています。まさに「愛」という部分で人々の情動は強められ、通報行動などが加熱する要因になるのではという指摘がされました。
政治の問題でもポピュラーカルチャーの問題でもなく、集合的な関係性の中でいかにインターネット上で規範を作っていけるのか。このことは、ファンダム形成の話だけでなく広義のコミュニティ形成にも通じる議論となりました。「推し」という言葉が広がり、ファンダムの力がどんどん強まっている今日、これからの参加型文化はどのような形で展開されていくのでしょうか。
さて、次回の『文化の闇鍋会』は修士論文の提出が近づいているため、論文レビューを行うことになりました。今回はゼミ生のみの参加を予定しておりますが、修士2年の松本さん、シュキさんの論文に関心のある方はぜひお声がけください!
来年1月以降の日程はまだ未定ですが、決定次第告知させていただきます。
『文化の闇鍋会』は、文化や芸術、ライフスタイル等々、さまざまな角度から現代社会を見つめる研究会です。
興味・関心のある方は、どなたでもご参加ください!