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令和の激ヤバアイドル赤羽瑠璃(ばねるり)について語りたい❣ 斜線堂有紀「星の一生」
記事見出し画像 VTuber立ち絵 井ノ内様
記事見出し画像 背景 背景素材屋さんみにくる様
21世紀の『接続された女』ですねこれは……。恋愛小説版『猿の手』とも言える。
赤羽瑠璃はたった一人の為のアイドルだ。
本当は、応援してくれるファンみんなの為の星でありたい。けれど、愚直なまでに愛を引きずる瑠璃には、未だにめるすけ以外の道標がない。彼女の心を奮い立たせ、過労で倒れそうな体を引きずらせてくれるのは、ただめるすけだけだった。恥ずかしいくらい代わりが利かない。今でも眠れないくらい、彼が恋しい。
一生舞台に立つから、一生推して欲しかった。今でも一生推して欲しい。
単行本情報
救いのないビターエンドばかりなので、メンタル落ちてるときに読まないほうが良いです。
「ミニカーだって一生推してろ」は単行本『愛じゃないならこれは何』、続編の「星の一生」は単行本『星が人を愛すことなかれ』に収録されています。また、そのさらに続編の「星は星に願わない星」はnoteに投稿されています。
「ミニカーだって……」だけ読むとただの厄介アイドルと感じられなくもないので、「星の一生」を先に読んでいいんじゃないかな。
別冊マーガレットで連載中のコミカライズもあります。単行本1巻の巻末には、めるすけがばねるりを推した理由の書かれた斜線堂有紀先生のSSも掲載されているので必読。
「ミニカーだって一生推してろ」編は原作と地下アイドルを続ける理由が若干異なり、中高生時代の回想に差し替えられています。原作小説の宗教表現が掲載紙のレギュレーションに引っかかったのかな?
どうでもいいですが何度だって立ち上がるって書かれると心が強ぇアイドルなんだなって。ド級のリトライ。
赤羽瑠璃の友人・黒藤えいらの恋愛模様については『君の地球が平らになりますように』の「『彼女と握手する』なら無料」に書かれています。えいらもある意味ばねるりを巡る多角関係の一角だし、えいらのほうが客観的に瑠璃を見られているので、読むと解像度が上がります。
あと「『彼女と握手する』なら無料」のほうが初心者向けです。主人公のえいらが自分から行動を起こせるタイプということもあり、結末が多少マシです。若干表現が際どいが。
からっぽだからこそ大成したアイドル赤羽瑠璃
斜線堂有紀先生の短編恋愛小説には相手に合わせてキャラを作り過ぎてしまうせいで自分が苦しくなる女が多いです。(女性向けの作品ではちょくちょく見る表現です。乙女ゲームの攻略対象とか無理くりにでもギャップ設定付くし)
人間誰でも大なり小なり意中の相手に素を出せないという悩みはあると思いますが、たいていは疲れて関係が自然消滅するかどこかで本性がバレます。しかしそこは小説、斜線堂有紀先生の書く女は倒れても素を出しません。それは、血を吐きながら続ける、悲しいマラソンですよ……
赤羽瑠璃もご多分に漏れず流されすぎヒロインです。20代半ばで崖っぷちの売れない地下アイドルだった瑠璃は、初めてエゴサを成功させてくれた最古参オタクのめるすけを崇拝し、めるすけがSNSで呟いている理想のばねるり像に合わせて自分を変えていくのです。
瑠璃は愚直なまでにめるすけを愛し、めるすけの意見やコメントに従ってアイドル活動を続けていた。(中略)
めるすけのプロデュース能力が高かったのか、それとも恋をしている人間は魅力的だというくだらない通説が正しかったということなのか、瑠璃は実際に人気が出てきている。だとすれば、瑠璃が更にめるすけにのめり込むのも無理はない。
めるすけの最初の呟きは「赤羽瑠璃は赤じゃなくて黒の方が似合うな」というものでした。瑠璃はこの後方プロデューサー面した投稿に苦笑するものの高揚感は抑えがたく、担当カラーを他のメンバーと被っていた朱色から黒に変えます。
ちなみにめるすけがなぜ黒にしたのかはコミカライズ版単行本1巻の巻末SSに書かれています。ヤミマキさん的にはぐう畜という感想。
結婚は人生の墓場と誰かが言いましたが、表舞台から素の瑠璃を埋葬する喪服となるとも知らずに瑠璃は黒い衣装をまとうようになるのです。
そして黒はなにものにも染まらない色であり、めるすけ以外の何物にも染まらないことの象徴なのでしょう。『星が人を愛すことなかれ』収録「枯れ木の花は燃えるか」のピュアリーホワイトさんが染まりきれなかったのとは対照的な色です。
めるすけは瑠璃と歳の近い、就職の決まった理系大学院生でした。瑠璃はめるすけの推し活を心の拠り所にしながらいつ叶うとも知れない夢に向かい続け、ついにはテレビでも引っ張りだこのトップアイドルに上り詰めるのです。めるすけの理想のアイドル像に従って。
凡庸で良識的なドルオタめるすけ(名城渓介)
斜線堂有紀先生の短編恋愛小説って女は恋に焦がれているのですが、意中の相手はそこまで魅力的には書かれていないことも多いです。でもいいのです。ハッピーエンドが基本のTL小説等と違って、斜線堂有紀先生のこれらの作品はビターエンドだらけです。相手がいい男のほうが浮かばれません。赤羽瑠璃みたいなヒロインにとっては、いつか相手が大した男じゃなかったと思えるようになることぐらいしか救いに至る道がないのですから。
赤羽瑠璃にとって最高で最悪だったのは、めるすけ(名城渓介)が凡庸で良識的なドルオタだったことです。瑠璃はアイドルとしての自分の趣味趣向をすべてめるすけのSNS投稿に合わせるのですが、めるすけは絶対に一線を越えようとしたりはしません。趣味がみんな合う相手なんて恋人はおろか友人ですら見つからないでしょうから熱狂的に推しはしますが、それだけです。
コミカライズ版の巻末SSを読んだ感じだと、めるすけは瑠璃を疑似恋愛の相手というよりもむしろ自分の分身か何かのように考えているように思われます。
人生の底が見えたから、渓介は何かを見つけなければならなかった。(中略)
地下アイドルの当てられてしまいそうな熱気は、渓介の人生を少しだけ広げてくれた。推しを作って応援すると、心が躍った。自分を乗せて、もう少し高く飛んでほしい。
渓介にとっての推し活って自己実現の代償行為なのです。「きみの長靴でいいです」(『愛何』)の灰羽妃楽姫が妻川というシンデレラのための魔法使い役をやらされているとしたら、瑠璃の役は渓介が自分で履けなかったガラスの靴を代わりに履いて舞踏会に向かう役なのです。搾取ではないと思うが買われている。
その矢印は瑠璃だけでなく渓介自身にも向いているのですから、恋人の冬美より優先されるのは必然です。
瑠璃に対して、あれだけ細やかな気遣いが出来る男とは思えないほど、名城渓介は気の回らない恋人なのだ。きっと彼は、恋人のことを解釈したりはしないのだろう。
言葉の裏を読んでくれることも、吐息の一つにすら意味を見出してくれることもない。解釈というのは、苦しいくらい愛のある行為だ。めるすけのように、妄想に近いほどの言葉を叩きつけてくれるのは、赤羽瑠璃を外側から定義してくれるのと同義だ。
さて、上記引用箇所は瑠璃視点の話ということが気にかかります。それもめるすけに恋焦がれ、その恋人に嫉妬して少しでも優越感を得たいときの瑠璃の感情です。
出番を与えられる度に、瑠璃はめるすけに試されているような気分になる。だから彼女は絶対に手を抜かない。めるすけの愛に報いるだけの完璧なアイドルでいる。
友人の黒藤えいらが「いつかは」愛されていると実感したいと願っているのと違って、赤羽瑠璃という女は「ずっと」めるすけに推されていると感じていなければ生きていけなかったのです。めるすけの解釈が合うのは、半分は瑠璃が瑠璃自身をめるすけの解釈に寄せているからなのです、きっと。
教祖様が予言したことを自らの意志で実行しておいて、「やっぱり教祖様の予言は正しかったんだ!」と言っているような危うさが瑠璃にはある。
実際のところ渓介というのは次のような男です。
「赤羽瑠璃と私が同時に熱出したら、どっちを看病する?」
「ばねるりは体調管理をしっかりする子だから、熱とか出さないよ」
渓介はばねるりの良いところしか見ていません。人間的な弱みなどないものとして扱っています。渓介の言葉に従ってアイドルを演じれば究極で完璧なアイドルとして大成できるでしょう。理想は昭和的なストイックなアイドルだしな。
しかしながら相方としてはどうでしょう? 友人としては? 名城、お前とアイドルやるの息苦しいよ……。私はこういうPCやってって言われたら逃げます。
『星が人を愛すことなかれ』収録の「枯れ木の花は燃えるか」には多股かけてる民生ルイってクソ男が出てくるんですが、そっちはなんでモテるかなんとなく分かるんだよなあ。
「いじめられてた子ってさ、絶対に隙を見せないって感じするから好きなの。何も考えてない子よりずっといい」
「それを口に出しちゃうあんたは馬鹿っぽいけど」
「そう? それでも、ピュアリーホワイトちゃんとは仲良くなれたから、俺のが賢いでしょ」
ルイは人が気にしてるところを際どいラインでイジって解毒するのがうますぎるのです。結果、憎まれ口を返されるのですが、ムキになって言い返したりはしません。でも多股かけてるクソ男なんだけど。
あと里見U『平成敗残兵☆すみれちゃん』の泉雄星とかな。
雄星「金にがめついしさ すぐばれるウソつくし 変に見栄っ張りで ほんとしょーもないオバサンよ
でも カッコ悪くいてほしくない」
めるすけが「好きなばねるり発表ドラゴン」するのは完璧なアイドルでみんなの一番のばねるりなのです。決してファンに逆ガチ恋して逆聖地巡礼したり逆凸してくるような赤羽瑠璃ではないのです。
赤羽瑠璃はアイドルばねるりと結婚しているのです(エリザベス1世並感)。黒藤えいらに内心お前そこ席変われと思われながら背中を押してもらっても、瑠璃はばねるりから逃げられないのです。どのみち、忙しくて毎日4時間しか寝られないくらいなのにプライベートでまでばねるりでいられないでしょう。
もちろん、渓介は良識あるオタクとして清く正しい推し活をしているだけで、すべては瑠璃の中の話なのですが。
過去の赤羽瑠璃が歌っている。未来のことを少しも考えないまま歌い続ける。おぞましいほど一途に、恋をしている。その道は地獄に続いているのに、その道を辿らなければ、赤羽瑠璃はアイドルにはなれなかったのだ。
ばねるりよりもめるすけについて書いた文章のほうが長いじゃないか!
バ美肉VTuber夜御牧れるは赤羽瑠璃を応援しています。