カメムシ注意報発令中
◆真夜中の訪問者
先日の夜、妻が裏のガラス戸を開け、空気の入れ替えをした。案の定、カメムシが2、3匹飛び込んできたらしい。
らしい、などと他人事みたいに言っているのは、目の症状が進んだために「お客さん」が見えないからだ。強烈な匂いでも放ってくれたら実感できただろうが、それはノー・サンキューである。
鍼灸院の患者さん、誰に訊いても、今年のカメムシには辟易(へきえき)している。そして、異口同音に「昔はこんなことなかったのに」と言う。
別に四国に限った現象ではない。もう30余都府県に「カメムシ注意報」が出ているのだ。農家にとっては死活問題である。
◆謎の飛行生物
6.7年前、山の上の小学校跡に往診していた。知り合いがデイサービスをやっていて、毎週、タクシーで出張した。
途中、羽の生えた10センチほどの虫が、前方の空が暗くなるくらい飛び交っていた。地面に落ちているものもいる。初めて見る生物だった。
その虫を狙ったものか、数えきれないほどのカラスが空中に舞い、あるいは電線に列をなして止まっていた。
◆♪地球よいとこ♪
物珍しさから、スマホで撮影しようとすると「絶対に外に出ないでください」とドライバーに注意された。山育ちの私は、そんなことはもとより、承知していた。
その頃、同じような虫に、あちこちの山道で遭遇した。あまり話題になっていなかったし、出現した原因について深くは考えなかった。
今にして思うと、異常気象、温暖化の産物であることは間違いなさそうだ。エサが豊富にあること、温かい冬であること、これだけの条件がそろえば、小さな命は幾何級数的に増える。
カメムシたちが身をもって証明している。
◆自然界の使者
数ある種類のうちでも、多くのカメムシが杉やヒノキの実(球果)を好む。どうやら、カメムシの異常発生は、杉・ヒノキの積極的植林と関係がありそうだ。
「昔から杉やヒノキは野山に生えていたではないか」と言う人もいる。それらの人の頭にあるのは、戦後「国土緑化」の掛け声のもと、日本全国に広がった杉林やヒノキ林だろう。童謡にも歌われたように(『お山の杉の子』)「はげ山」は豊かな緑に姿を変えて行った、かに見えた。
成長の早い杉は、何十年も待たずして成木となり、大量の球果を結ぶ。1970年代に杉花粉症が急増したが、あれは環境クライシスの始まりを告げるものでしかなかった。
おそらくカメムシ以前にも警鐘を鳴らしてくれた生き物はいただろう。ただ、我々が鈍感だっただけだ。今こそ、あの匂いにじっと耐えて、自然界の叫びに耳を傾けなければならない。
◆秘策
そうは言っても、何らかのカメムシ対策は必要だ。元保育士の高齢患者さんから、伝授された。
「あれはね、コツがあるのよ」
私は固唾(かたず)を呑(の)んで、続きを待った。
「部屋に入ってきたら、塵取(ちりと)りで、そっとすくってね」
長年乳幼児に接してきただけあって、実におっとりした方だった。
「『また遊ぼうね』って言って、窓から出してやればいいのよ」
冗談を言うような人には、思えなかった。試したことはないが、なるほど理にはかなっている。