同居人　

　◆酔客敬遠

　寒くなると、燗酒（かんざけ）がいい。しかし、２合、３合と進むうちに、眠くなってくるのが難点だ。特に、列車などで帰宅する者は、用心しなければならない。

　となりに腰かけていた中年婦人が居心地悪そうにしている。列車が停まり、向こう側の席が空いたので、婦人は素早く移った。
　いくら鈍感な私でも、理由は察しがついた。酒の匂いである。

　婦人の降りる駅が近づいたのか、立ち上がった。私の横に目をやると、婦人の小さな荷物があった。私が婦人の方を見たので、婦人も気づいたのだろう。小走りに近づいて、荷物を持ち、乗ってくる客をかき分けながら、ホームに降りた。

　◆未熟者

　列車が発車した。
　私は急に酔いが醒めた。
「なんで、あんなことを考えたのだろう。まだまだ精神修養が足りんな」
　恥を忍んで白状すると
「ざまあ見ろ」
　と、ほくそ笑んでいたのである。

　◆悪い寝覚め

　この話を妻にした。
　さすが40年以上連れ添った配偶者だった。見抜かれていた。深刻な内容なのに、ニコニコして聞いている。

　最近、列車に乗る機会があったが、田舎では普段はガラ空きだ。何も好き好んで、酒臭い酔っぱらいの横に座ったりはしない。

　実は、コタツでひとり呑んでいて、寝てしまった。その時に見た夢だった。「なんという嫌な性格なんだろう」と忸怩（じくじ）たる思いをしていて、目が覚めた。　

　◆この人物にして

　いつだったか、ある有名聖職者が信者に大歓迎を受けるシーンが、映像で流されていた。
　握手攻めだった。感極まった女性がいたのか、聖職者の腕に抱きついてしまった。聖職者は女性を叩き、手を振りほどいた。その時の表情をカメラがとらえていた。およそ聖職者の顔ではなかった。

　どんなに修行、修養を積んでも、根っこにある人の本性は、ふとした時に頭をもたげてくるのかも知れない。　

　◆バトル

　人間は弱い、と思う。
　ほとんど意識の蓋（ふた）がされていない夢の中では、本性が解き放たれる。それはもちろん起きていても、じっと機会をうかがっている。そして、時に「ざまあ見ろ」などとささやく。

　彼の声に耳を傾けるとロクなことがないので、私は即座に、彼のスイッチをオフにし、思考停止させることにしている。夢に出てくるのは、自己主張できず欲求不満になっているからか。手ごわい相手だ。