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日本猫島探訪―宮城県・田代島の猫たち―
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猫好きなら一度は聞いたことがあるかもしれない、東北唯一の猫の島として知られる宮城県石巻市の太平洋に浮かぶ「田代島」。震災を乗り越え、そしてコロナ禍を経て、現在も国内外から多くの観光客が訪れる。今回は震災後から田代島でボランティア活動を続けている、獣医師のクレス聖美先生の話を元に、島で暮らす猫たちの様子をお届けします。
島民よりも猫が多い島として知られる「田代島」。
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東北で唯一の猫島である田代島は、人口よりも猫が多い島と言われている。周囲約11キロメートルの小さな島のため、島の端から端まで歩いて移動することが可能だ。アクセスは石巻市のフェリー乗り場から、約45分。島には大泊港と二斗田港の2ヵ所に港があり、それぞれを歩いて行き来することができる。行き帰りで違う港を選んで、島全体の猫たちを見て回るのもおすすめだ。
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「現在島には140匹くらいの猫が暮らしています。田代島では外からの力を加えず、自然の成り行きに任せて猫たちが暮らしているのですが、不思議なことに猫の数は常時150匹前後です。最近では島民の方々の意識も変わってきて、薬の使い方をお伝えすると、猫たちに使ってくれる人が多くなりました。その甲斐あって、観光客の方にも猫たちがキレイになったと言われています」と話すのは、震災以来12年間田代島でボランティア活動をしている、クレス聖美先生だ。
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クレス先生の話にもあるように、田代島では猫全頭に避妊去勢手術を行なってはいない。 島の猫たちの寿命が短いこと、また猫の島として観光を続ける姿勢であることも踏まえ、集落によって増えすぎることが懸念される場合のみ手術で対応している。
猫が増えたのは島の歴史にあり。
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なぜ猫島と呼ばれるようになったのかは、島の歴史にあるという。「島ではかつて養蚕業が行われていたため、ネズミ退治のために猫を飼っていたそうです。ネズミが繭を食べてしまうので、それを守るために猫はなくてはならない存在だったそう」
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その後、田代島が一躍有名になったのは一人のテレビディレクターの功績だという。「20年以上前に朝の情報番組のディレクターがものすごく猫好きで、この島へ撮影に来たそう。その際に作った映像をきっかけに、田代島が注目されるようになったみたいです。海外からも取材班が訪れるようになり、少しずつ外国の方々の観光客も増えていきましたね」とクレス先生が話してくれた。
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島での猫の暮らしは……?
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「島にはいくつか集落があり、計5家族ほどが猫たちの面倒を見てくれています。昔は早朝港に漁師さんから魚をもらいにきていた子がたくさんいたのですが、今は朝漁に出る船が減ったこと、また安定してご飯をもらえるところが他にもいくつかあるので、以前に比べると、ちょっと寂しい朝の風景と言えるぐらい減りましたね」とクレス先生が話す。健康状態の良い猫たちも 以前と比べると増えたという。
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「猫たちの寿命はだいたい5年以内です。それ以上過ぎればすごいと言われるくらい、ほとんどの猫たちは短命です。島に2ヵ所ある港の一つ、大泊港にいるどんべいという猫が、おそらく島の中で最長老だと思います。ちょうど10歳くらいになりますね」。
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クレス先生は現在、4〜5ヵ月に一度は島を訪れている。「今日本とドイツを行き来する生活を送っていて、コロナ禍では2年間ほど来日ができなかったこともあり、島へもなかなか行くことができませんでした。島民はお年寄りの方がほとんどなので、東京から感染症を持って行ってはいけないという懸念も大きかったです。しかし昨年からは全面的に解禁されたこともあるので、今はまたできる限り伺おうと思っています」
島で猫に会えるスポットは……?
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せっかく島まで行くのなら、たくさんの猫たちと出会いたいところ。島内で確実に猫に会えるスポットについて伺うと、「島のちょうど中央あたりに『島のえき』というお店があり、そこには60匹ほどの猫が常にいます。あそこに行けば確実に猫に会えるはずです。あとは港の近くにも、猫たちがちらほらいるので、島に降り立てば猫には会えるはずですよ」とクレス先生が言う。
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実際に取材班が島を訪れた際にも、たくさんの猫たちが姿を見せてくれた。最初に到着した大泊港付近には、神社の前に佇む猫や、駐車場で寝転がる猫などを確認。クレス先生から伺った「島のえき」へと向かう道中には猫神社があり、そこにも猫たちが多数いる。そこから少し歩くと島のえきに着くので、多くの猫と出会えるはずだ。
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帰りは、二斗田港へと向かったが、その道中にも猫たちはたくさんいる。中には生後数ヶ月の子猫が歩いているなど、他の猫島ではなかなか見ることのできない子猫を見ることもできる。また、二斗田港付近には、寝転がって昼寝をする猫などもたくさんおり、見ているだけで癒やされること間違いなしだ。
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田代島への行き方は……?
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田代島へのアクセスは、仙台駅からJRで石巻駅まで向かうところから始まる。時間は1時間ほど。そこから、バスまたはタクシーで船着場まで向かい、フェリーに乗る。フェリーに乗船してからは、45分ほど。料金は往復、約2,500円で行くことができる。
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たくさんの猫たちと出会うことができるスポットである田代島は、関東からも比較的アクセスがいい。猫好きは一度訪れてみてほしい土地だ。
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石巻・旧北上川河口船着場
(綱地島ライン株式会社:0225-93-6125)
※船の時間等については、綱地島ライン株式会社まで問い合わせください。
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クレス聖美(クレス・キヨミ)
ドイツ動物自然療法 Dr.クレスPetClinic 総院長。北海道大学獣医学部獣医学科卒業。1982 年より30 年の間、ダルムシュタット市にドイツ人獣医師の夫と共に、 一日平均80 匹の患畜をケアするドイツ有数の小動物総合病院を経営。 現在はメンターとして若い獣医師達の教育にあたっている。日本でも、ドイツ動物自然療法 Dr.クレスPetClinicで総院長として数ヶ月に一度来日診療を行なっており、その他にもドイツ動物自然療法や ドイツ動物愛護に関する講演、セミナー、ワークショップを定期的に開催。また、来日毎に「猫の島」で有名な宮城県の田代島に渡り、ボランティア診療を 行なっている。
スタッフクレジット:
photo:Yu Inohara edit&text:Makoto Tozuka
Produced by MCS(Magazine House Creative Studio)