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読書録:神秘学講義

高橋巖『神秘学講義』(角川ソフィア文庫)
体調がすぐれずに本を読めない場合を別とすると、実家にいるより一人暮らししているときのほうがよく本を読める気がする。不思議である。
本書は先に紹介した『死者の花嫁』に先行して読みかけていたのだが、途中で読み進められなくなり、中断して『死者の花嫁』を読み始め、そちらを先に読み終えた。読み進められなくなったら中断して別の本を読むことはよくやっている。
本書はタイトル通り、「神秘学」の解説書である。神秘学というのはルドルフ・シュタイナーとブラヴァツキー夫人によっておおよそ同時期に確立されたもので、世間ではオカルティズムやスピリチュアリズムの観点で語られていることが多い気がするが、本書によるとこれはちゃんとした思想の一形態だという。この神秘学の重要な文献がシュタイナーの『神秘学概論』で、本書の著者はその訳者である。
本書はまず1~3章で神秘学の要点を取り上げ、4章でシュタイナーの思想に基づき、思想的な「行」の実践法を紹介する。その後、シュタイナー以外で神秘学の確立・発展に大きな影響を与えたユングとブラヴァツキー夫人について述べる。心理学者であるユングが登場するのは一見すると意外だが、神秘学において夢や思考が重要な役割を担っている点を考えると、神秘学と並行して発展した心理学が神秘学に大きな影響を与えていることは容易に感じ取れ、また神秘学における思考法が心理学的な関心を呼び込むこともまた想像できる。特に「無意識」と「神話・民話の心理学的考察」に高い関心を寄せていたユングは、他の心理学者よりも神秘学と相性がよかったのかもしれない。
余談だが、オカルティズムに関心を寄せた心理学者に宮城音弥がいる。彼の著作に『神秘の世界』という本があり、読んだことがあるが、彼のアプローチは超常現象の科学的解明にあるようで、ユングのアプローチとはまた違うようである。
さて、本書を読了するのに時間がかかった理由が、本書の第4章で、ここでは神秘学における2つの行法「アポロン的行法」と「ディオニュソス的行法」が紹介されているのだが、この2つが詳細に紹介されすぎていて、章の分量も本書の2章分に亘るので多く、途中で飽きてしまったのである。この章をようやく読み終わったところで疲れてしまい、少し休むつもりで『死者の花嫁』を読み始めたら、そちらを先に読み終わったという次第である。
ちなみに、本書の親本である角川選書版はユングについての記述が欠落した不完全なかたちだったらしいが、これは紙幅の都合上やむなく割愛されただけらしい。

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