娯楽小説について
「古臭い」と言われそうなのだが、19世紀から20世紀前半に書かれた古い娯楽小説が好きで、よく集めている。最近の娯楽小説からは得られない栄養が、そこにある気がするのである。
例えば『宝島』や『ソロモン王の洞窟』は宝探しものである。映画で言えば『インディ・ジョーンズ』の先駆と言えるが、現代でこういう作品はあまり見かけなくなった。思い当たるのは田中光二氏の『北の黄金』や泡坂妻夫氏の『からくり東海道』などである。
SF色を含むもの(初期SF)では『地底旅行』や『失われた世界』が好きなのだが、最近のSFは宇宙か未来か仮想空間といった印象である。地球上がほぼ探検され尽くしたことで、地球を舞台にした冒険SFが書けなくなった実情はあるかもしれないが、それでも映画『ドラえもん のび太の大魔境』のような傑作が生まれているので、余地はあると思う。
ファンタジーは国内外問わず長大なシリーズになることが多く、一作家最低一冊主義でより多くの作品を読もうとする僕は手を出しづらいところがある。そのため一冊で完結するものしか読んでいない。ファンタジーは元々読んだ冊数が少なく、『クリスマス・キャロル』と『北風のうしろの国』ぐらいしかないのだが、日本は1990年代頃からファンタジーの隆盛が著しくなったようで傑作が多く生まれている。梨木香歩氏の『裏庭』、上橋菜穂子氏の『精霊の守り人』が好きだ。
「恋と義侠」と呼ばれる分野がある。ある種の人助け小説で、源流はロビン・フッドのような義賊の伝承にあるだろうか。『紅はこべ』や『快傑ゾロ』が有名だが、現代日本では鳥羽亮氏の剣豪小説が近いだろうか。
冒険というと僕はつい秘境探検を思い浮かべるのだが、誰かを助ける、何かの秘密を探る、といったタイプの冒険もある。怪盗ルパンシリーズはだいたいこのパターンだが、これは日本では田中芳樹氏の独擅場みたいなところがある。他に思い当たる作品として真保雄一氏の『レオナルドの扉』が挙げられる。
怪奇小説の中にはスリラーの体裁を取るものがあり、通俗的と言われてもこちらのほうが実は好みだったりする。『吸血鬼ドラキュラ』や『オペラ座の怪人』がそれで、モダンホラーの勃興からはあまり見かけなくなってしまったが、北上秋彦氏の『吸血蟲』はいわゆるB級映画のノリ(褒め言葉)で楽しめ、気に入っている。