親魏倭王、本を語る その14
【ジョン・ポリドリの吸血鬼小説】
近代小説で吸血鬼を取り上げた最古のものは、どうもジョン・ポリドリの『吸血鬼』のような気がする。 この作品は、メアリ・シェリーの『フランケンシュタイン』と同じ1816年に執筆された。この時、詩人のバイロンはシェリー夫妻らと怪談の競作を試み、その提案によって書かれたものである。
著者のポリドリはバイロンの侍医であった。この作品は1819年に『ニュー・マンスリー・マガジン』に無断で掲載され、しかも「バイロン作」と誤ってクレジットされてしまった。バイロンとポリドリが否定し、同年にはバイロン自身の吸血鬼小説も刊行されているが、混乱の解消には至らなかったようだ。
佐藤春夫が訳したものが青空文庫で読める。
【ヴァン・ダインの短編】
S・S・ヴァン・ダインはほとんど短編を書かなかった作家で、論創海外ミステリ所収の『ファイロ・ヴァンスの犯罪事件簿』は、ヴァン・ダインの数少ない短編を集めた貴重な1冊。ただ、これは創作ではなく犯罪実話であるという。
読書メーターで感想を見ていると、おもしろかったという意見と難しい・読みにくいという意見とが見られる。実録小説なので、小説として読むよりルポルタージュとして読むほうがいいのかもしれない。ここは読み方によって評価が分かれるらしい。また、探偵役ファイロ・ヴァンスの影が薄いため、それが不満という意見もあるようだ。
【谷崎潤一郎の探偵小説】
ミステリーファンでもよほど文学史に詳しい人でないと知らないかもしれないが、『春琴抄』『細雪』で知られる谷崎潤一郎は、1920年代にミステリーを書いている。集英社文庫から『谷崎潤一郎犯罪小説集』という作品集が出ていて、「柳湯の事件」「途上」「私」「白昼鬼語」の4篇が収録されている。
昔から評価が高いのが「途上」と「白昼鬼語」で、前者は「プロバビリティー(蓋然性)の犯罪」を扱った代表例として江戸川乱歩が激賞している。「白昼鬼語」は暗号解読物で、ある有名な作品をベースにしているそうだ。 ちなみに詩人の佐藤春夫もミステリーを書いている。
【黒岩重吾晩年の時代ミステリー】
『斑鳩宮始末記』は、ミステリーと歴史小説で活躍した黒岩重吾の、晩年の作品である。特定の人物を主人公とする、伝記小説が多かった黒岩にしては珍しい歴史エンタメ小説で、飛鳥時代を舞台にした時代ミステリーである。
主人公は渡来系氏族出身の舎人・調首子麻呂で、彼は部下の魚足とともに聖徳太子こと厩戸皇子の命令で犯罪の捜査に当たる。 連作短編集で、取り上げられる事件は役人の不正が絡んでいる場合が多く、社会派ミステリー作家だった黒岩の面目躍如といったところだろうか。
最初は中学生の時に読んだが、下ネタが多く、中学生には刺激が強すぎた。