黒又山考
黒又山は、秋田県鹿角市にある、標高280mの円錐形の山である。地元では「クロマンタ」とも呼ばれているが、一説ではアイヌの言葉で“神々のオアシス”という意味の“クルマッタ”が転訛したとされる。円錐形の山は神が宿る山「カムナビ」として信仰されている(奈良県の三輪山が有名)ので、黒又山もカムナビだったかもしれない。
この山は1992年に黒又山総合調査団によって学術調査がおこなわれた。その結果、この山は現在土に覆われているが、麓から山頂までが7~10段の階層を持つように人為的に手が加えられており、さらに山頂の地下10mの部分には空洞があり、何者かを埋葬している可能性が高いことが明らかになった。つまり、中南米に見られる階段型ピラミッドを彷彿させる形状だったのである。また、石器や土器が採集されている。
このことから、日本における人工的なピラミッドの存在を裏付けるものという言説もある。
周辺には縄文時代を代表する遺跡のひとつである大湯環状列石があり、この遺跡は明らかに黒又山を意識した設計になっている。そのため、黒又山を中心にした祭祀空間が造られていたことは間違いないだろう。山麓には堤尻I遺跡・堤尻II遺跡・堤尻III遺跡などの縄文時代の遺跡が点在しており、黒又山そのものからも縄文時代の遺物が出土している。
さて、問題は黒又山のピラミッド状の構造である。これが事実であれば人工的な造成であることは間違いなさそうなのだが、どこかの遺跡との比較検討は行われているのだろうか。例えば、限りなく可能性は低いと思うが、神籠石系の山城である可能性はないか。また、そのピラミッド状の構造と山頂の地下遺構を、出土した縄文時代の遺物と短絡的に結びつけていいものかどうか。
現状、オカルティックな言説が独り歩きしている黒又山。その考古学的研究は端緒についたばかりである。考古学の専門知による本格的な調査・研究が待ち望まれる。
『Webムー』によると、岩手県北上市には飯豊森(えんでもり)という山があり、こちらもかつては「クロマンタ」という地名だったという。
〔参考記事〕