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親魏倭王、本を語る その08

【吉原御免状】
隆慶一郎『吉原御免状』(新潮文庫)は吉原成立の背景に傀儡(くぐつ:人形まわしなどを生業とする漂泊の芸人集団)を置いた伝奇小説で、吉原を根城とする傀儡たちと裏柳生(忍び)の暗闘を描く。徳川家康影武者説が絡められていて、これが後に独立して『影武者徳川家康』になったらしい。
物語は剣豪・宮本武蔵に育てられた剣客・松永誠一郎が、花街・吉原を根城とする傀儡たちととともに、彼らの排除を目論む忍者衆・裏柳生と戦うというもの。もっとも、柳生でも幕閣に仕える表柳生の長・宗冬はどちらかというと吉原の擁護に回っており、同じ柳生一族内でも対立が見られるなど、筋書きは複雑である。
本書には『かくれさと苦界行』という続編があるが、当初は四部作の構想だったと言われる。隆慶一郎が亡くなったためにそれ以上の続編は書かれなかったが、幸い、物語は『かくれさと苦界行』で一区切り付いている。


【即身仏(ミイラ)の殺人】
高橋克彦『即身仏(ミイラ)の殺人』(PHP文芸文庫) は浮世絵研究家・塔馬双太郎を主人公とするシリーズの1冊で、即身仏がテーマになっている。
舞台は湯殿山麓、映画の撮影現場から即身仏とみられるミイラが出土する。このミイラは文献に全く記述がない未知のミイラだった。その所有権をめぐって対立が起こる中、殺人事件が発生し、依頼を受けた塔馬が調査に乗り出す、というストーリーである。
即身仏については作中に詳細な記述があるのだが、ある程度、即身仏について知っていると、作中で発見された即身仏に違和感を覚えることになる。興を削ぐので詳細は書かないが作中に登場する即身仏は、湯殿山系即身仏にしては妙な点が多すぎるのである。僕はかねてから即身仏に関心を持ち、専門書を読み漁っていたので、諸々の違和感にはすぐ気づいた。たぶん意図的なものだと思う。
即身仏についての基礎知識があると、より楽しめる作品である。


【鬼神新選】
出海まこと『鬼神新選』(電撃文庫)は伝奇時代小説で、明治時代初期、戊辰戦争直後の京都と東京を舞台に、元新選組隊士の永倉新八の冒険を描く。
物語は、永倉が岩倉具視から消えた近藤勇の首の捜索を依頼されたことから始まる。京都へ向かった永倉の前に、土方歳三をはじめ、死んだはずの仲間たちが現れる。現状、3巻で途絶している。
読んでみるとかなりおもしろいのだが、ラノベレーベルの電撃文庫から刊行されていたためか、あまり知名度が高くない。一方で、電撃文庫内でも時代小説である本書は立ち位置が微妙だったような気もする。ラノベとして刊行されたため、色眼鏡で見られて真っ当に評価されていない作品はかなり多いのではないかと思う。
ラノベは枠内にSFやファンタジーなど多様なジャンルを含むのだが、ラノベ自体がひとつのジャンルとして扱われ、個々の作品が本来属すべきジャンルから見えなくなっている気がする。考えものである。


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