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在宅での嚥下障害患者の経口摂取をどう進めるか? - 安全な経口摂取再開への取り組み
こんにちは。やまとドクターサポートの原田です。毎週開催している「15分間医師カンファ」では、現場での気づきや悩みをテーマに、やまとの全診療所の医師が様々な視点から解決策を考える場を設けています。今回は在宅での嚥下障害患者の経口摂取再開について話し合いました。
Take Home Message
専門的評価と実際の試験的摂取、両方の視点が重要
多職種連携による総合的な評価とアプローチが必要
患者・家族の希望と安全性のバランスを考慮した判断が求められる
カンファでの意見交換
A医師:「嚥下障害の患者さんについて相談させてください。脳血管障害で入院中に嚥下障害があり経管栄養となった方から、退院後、食べたいという希望が強くありました。地方の診療所で、STさんがいない状況なのですが、どのように評価し介入していくべきでしょうか?具体的には、半年ほど嚥下練習を継続し、最近ゼリーでの試験摂取を行ったところ、むせもなく良好でした」
B医師:「その評価方法について、もう少し詳しく教えていただけますか?」
A医師:「はい。後頭部挙上の確認、食後の喉のゴロゴロ音の確認、摂取後の声音の変化などを評価しました。現在は30gほどのゼリーから開始し、問題がなければ徐々に量と形態を上げていく予定です。ただ、専門的な評価ができていないことに不安があります」
C医師:「都市部と地方では利用できる資源に大きな差がありますよね。私たちの地域では耳鼻科の先生と連携でき、VE(嚥下内視鏡検査)やVF(嚥下造影検査)による評価が可能です。ただし、興味深いことに、専門的な評価を行っても、実際の摂食場面でのトラブルはほとんどないという経験があります」
D医師:「私も同感です。病院で『絶対に食べられない』と言われた方でも、実際に在宅で試してみると食べられることは少なくありません。環境の違いや時間経過による回復も影響していると思います」
A医師:「在宅での評価方法として、水飲みテストは活用されていますか?」
E医師:「はい、私は改訂水飲みテスト(MWST)を基本的な評価として使っています。冷水3mlを使用して5段階で評価するのですが、 特に嚥下の有無、むせ、呼吸状態、湿性嗄声の有無を注意深く観察します。ただし、これはあくまでスクリーニング検査という位置づけです」
F医師:「それ以前の水飲みテストも参考になりますよ。30mlの水を使用しますが、誤嚥リスクを考慮して、最初は少量から始めることをお勧めします。また、とろみ水を使用することで、より安全に評価できることもあります」
A医師:「多職種との連携について、アドバイスをいただけますか?」
G医師:「STがいない場合、訪問看護師との連携が特に重要です。日々の変化を細かく観察してもらい、その情報を基に判断していくことになります。また、訪問歯科の先生も嚥下評価に詳しい方が増えてきていますので、連携を検討してみてはいかがでしょうか」
H医師:「ポートフォリオの作成も有効だと思います。今回の評価方法や経過を文書化しておくことで、同じような症例に対して、訪問看護師さんと共有しながら進めていけると思います」
A医師:「リスク管理については、どのように対応されていますか?」
I医師:「家族への十分な説明が重要ですね。誤嚥のリスクについて理解していただいた上で『むせる可能性もある』ということを事前に説明します。その上で、段階的に進めていくことで、家族の不安も軽減できます」
J医師:「私の経験では、病院での評価と実際の在宅での様子が異なることを、家族にも理解していただくことが大切です。入院環境と自宅では、患者さんの意欲や覚醒状態も変わってきますからね」
A医師:「エビデンスについてはいかがでしょうか?」
K医師:「残念ながら、在宅診療における嚥下障害への介入については明確なエビデンスはないと思います。ただ、フレイル対策としての在宅リハビリテーションや多職種チーム医療の有効性は示されています。これらを参考に、包括的なアプローチを心がけています」
L医師:「私からは実践的なアドバイスですが、経口摂取を再開する際は、できるだけ本人の好みの食品から始めると、意欲維持にもつながります。もちろん、形状は適切に調整する必要がありますが」
おわりに
嚥下障害患者の経口摂取再開は、専門的評価と実践的アプローチのバランスが重要です。特に在宅では、様々な制約がある中で安全に進めていく必要があります。
今回の議論で印象的だったのは、病院での評価と在宅での実際の様子が異なることがあるという点です。専門的評価を重視しつつも、実際の試験的摂取を通じた評価も重要であることが確認されました。
本日の議論が、皆様の診療現場での判断の一助となれば幸いです。
やまとドクターサポートの原田でした。