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幕末物語

第1話:黒船来航


嘉永6年(1853年)の夏、江戸湾に突如として現れた黒船は、穏やかだった日本の空気を一変させた。巨大な蒸気船から立ち上る黒煙は、まるで時代そのものが動き出す合図のようだった。


江戸の町の片隅、武家の一角にひっそりと佇む屋敷。そこに住む若き武士、片倉修平は、剣術道場を営む父の影響を受け、幼少の頃から厳しい鍛錬を積んできた。だが、修平の心は剣術だけでは満たされないものがあった。彼は密かに、己の生きる意味を探し求めていたのだ。


その日も修平は道場の庭で木刀を振っていた。しかし、黒船来航の報を耳にした父が厳しい表情で彼に告げた。


「修平、お前も見聞を広げる時が来たようだ。時代は大きく変わろうとしている。何が起こるか分からぬ今、己の目で未来を見定めよ。」


父の言葉に押され、修平は初めての江戸の町に出た。彼が向かったのは、黒船の一報を伝え聞いた長崎屋という茶屋だった。そこには、様々な情報を求めて集まる町人や浪人たちのざわめきがあった。


茶屋の片隅で、修平は一人の異様な雰囲気を纏った男に目を奪われた。彼の名は風間朔也。一見してただ者ではない彼の眼光は、まるで全てを見通しているかのように鋭かった。


「お若いの、初めてか?この騒ぎに興味があるなら、覚悟を決めることだ。黒船はただの始まりに過ぎぬ。」


風間は低い声で言った。修平は反射的に問うた。


「覚悟とは?」


「時代に抗うか、それとも従うか。その選択だ。」

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