映画レビュー「敵」
もしかしたら僕もこんな老人になるのでは・・・と少し考えてしまった。
順番でいえば僕の方が家人より先に死を迎えるわけだが、
仮にその逆になるとこんな生き方になるかもしれないと。
長塚京三演じる元大学教授の儀助には知性も品性も及ばないが、生き方は似ている。
毎日、同じ時間に起き、同じ時間に食事をし珈琲を淹れ、同じ時間に机に向かう。
着るものにもそれなりに気を遣う。
近いといえば近い。
日々のルーティンを大切しているというか、取り組み方にこだわりをもっている。
一見、退屈で変哲もない時間が充実していたり・・・。
そうじゃないといけなかったり・・・。
僕には子供も親戚もいるので頼りになる人がいないわけではない。
ただ20年後独りならこんな孤独な時間になるような気がしてならない。
きっとくだらない見栄やプライドもあるだろうし。
そんなモノクロの映像に共感しながら観ていたわけだが、ある時から状況は変わる。
その原因は何か・・・。
季節が変わることはすなわち老いが進むことを意味する。
妄想力の愉しさが現実と交錯し恐怖に変わる。
どこまでが夢でどこまでが現実なのか、自分では分からなくなる。
もしかしたら20年後、僕はそんなふうになるかもしれない。
それを感じさせた。
そう思うと本作は50代や60代には受け入れられ、若い人には通じにくい。
30代に向かって50年後を想像しろと言っても無理。
50代、60代の枯れそうで枯れない男性陣には観てもらいたい。
解釈も異なると思うし・・・。
映画で瀧内公美を久しぶりに観た。
2021年の「由宇子の天秤」以来。
彼女はTVドラマではなく映画が似合う女優。
昨年の大河ドラマ「光る君へ」の源明子も悪くはないが、本作の役柄の方が断然いい。
少し妖しげで魅惑的でありながら従順な態度が妄想力を膨らませる。
儀助がああなってしまうのも仕方がない。
彼女の魅力が伝わる作品でもあった。
話題の河合優実はもっと出番が多くてもよかった。
こじんまりとした作品だが、僕自身の近い将来を想像させてくれた。
いいかどうかは別にして。
こんな映画もありだろう。
映画の評論になっていないけどね。