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がん様々 12 なんといっても消化器ケア

がん患者による、がん患者のための、
がん治療対策マニュアル


2章 抗がん剤治療開始

15 ムカムカしたら食べどき

これで前半の抗がん剤が終わったのですが、やはり一番言いたいのは栄養の摂り方です。
栄養の摂り方次第で、抗がん剤と共に投与する制吐剤をいれても起きる吐き気は大幅に軽減されます。「タベモノ」での効果のように、食べる物による副作用対策法も見つけました。

お話は初回初日の吐き気に戻りますが、これは本当に辛かったです。
エネルギーが吸い取られる音が「すぅ〜」と聞こえそうなほどのスピードで吸い取られて行く様、それに伴い起きる寒気や段々増して行く吐き気。吐き気に苦しみながら、最終的に身動きできなくなった自分に、一人暮らしでこれはまいったな、と心に語りかけていた様子を鮮明に思い出します。

この吐き気は、経過を読んでいただいてお分かりのように、乗り越え方が段々と上手になっていきます。
吐き気が起きなくなる方法を会得するまでの様子を人に説明すると、妊娠悪阻の経験がある女性は「悪阻みたいだね」、二日酔い経験がある男性は「二日酔いのときみたいだね」などとおっしゃる方が実に多いです。妊娠悪阻や二日酔いを経験したことのある方は、少し共感できると思います。

我ながら、何か大事なことを発見したかもしれないと感じています。

3つの吐き気の共通点は、「食べると楽になる」です。気持ち悪くても、食べられる範囲でチョコチョコと食べるのです。口に入れる前は気持ち悪い感が先にくるので「食べれば楽になる、食べればラクになる」と念じ、食べた後の状態を想像しながら食べていました。

吐き気の原因が、妊娠でもアルコールでも抗がん剤でも、吐き気に対する作用は似ているのかもしれません。栄養が足りないから起きる「吐き気、ムカムカ、気持ち悪さ」があることを、知っておいた方が良いでしょう。

ただ、吐き気や気持ち悪さと、粘膜への副作用による胃もたれや胸焼け感は別に捉えた方が良いです。
これは原因が違うからです。胃もたれや胸焼け感が気持ち悪さに感じたりもするのですが、原因が違うので対処法は異なります。

抗がん剤により、ターンオーバーが早い消化器に機能低下が起こります。
口腔から肛門までの粘膜に影響が起きるのです。口腔には乾燥や口内炎、味覚障害、胃腸には消化機能低下、肛門には排便痛や出血といった症状が起きやすくなります。

この胃腸の消化機能低下による症状が、胃もたれや胸焼け感なのです。

そして、うまくターンオーバーに乗れば、2週間経過するまでには投与前の元の状態に戻るか、もしくは一次的な症状までにとどめられます。2週間経過するまで、というのは抗がん剤の種類や個人差によるものがあるからです。

消化器の細胞が剥がれ落ち元に戻っていくのですが、投与からこの剥がれ落ちる間の予防や対処の仕方がセルフケアとなり、より楽な副作用へと導いてくれるのです。

先ほど挙げた症状で言えば、口腔の乾燥と口内炎はガムで、胃腸の消化機能低下は消化によいモノをチョコチョコ食べて、肛門の排便痛や出血はトイレに流せるお尻拭き(ウェットタイプ)で、私は楽になり、症状が起きなくなりました。


今、現場で上に立つ医師の多くは栄養学を学んできていないので、栄養の大切さを知らない人が多いと聞きます。そのため、こちらが食べ物や栄養による成果をお伝えしても、想像が広がらないようでした。
エビデンスがある情報以外はなかなか口にすることはできない医師としての立場もあるでしょう。専門医はすべてを知っているわけではなく、“専門的なことはよく知っている”のです。ですから、私は報告しませんでした。

他国では治療の1つとなっている「栄養」ですが、日本はその点で遅れをとっています。
それを懸念し、日本の栄養学を代表するD先生が医学部のカリキュラムに「社会栄養学」を入れたのです。文科省と厚労省が連携しての結果かどうかは知りませんが、よく理解くださったと患者として感謝の気持ちになります。

社会栄養学を学んだ医師はまだ若く、現場で意見を持てる位置にはいないと思いますが、先生方が現場を仕切るようになった時、臨床現場も変わっていくのでしょうね。

患者の現場ではなかなか導入されているのを感じられませんが、多くの医療施設で稼働しているはずの「NST(Nutrition Support Team, 栄養サポートチーム)」も、もっと活かされていくことでしょう。
このNSTは、緩和ケアの現場できちんと取り入れているところもありますので、それを知る医療従事者は、栄養の効果をもっともっと伝えていきたい、延命にも繋がる、と感じていることと察します。

日本でも栄養が治療の1つとなった頃には、がん治療はもっと進歩し、今のような副作用が起きないようになっているかもしれません。私がいま一番期待しているのが「がん光免疫療法」です。国立がん研究センター 東病院ではじまりましたね。

私がいま直面している がん時代は、がんで死ぬ最後の時代、とも言われているようです。がんも治る病気になるということです。
いつか私が受けてきた治療が古くさくなることを、心から願います。

16 味覚の変化と口の乾燥

前半の抗がん剤では、他にも多くの発見がありました。

これまで書きませんでしたが、2回目と3回目の間あたりから味覚が敏感になっていました。外食のすべての味を濃く感じ、お水でさえクセを感じ、外食ができなくなっていたのです。

良いこともあり、おかげで野菜の微妙な味も感じることができ、食べ物の素材を人生の中で一番楽しめたときでした。舌の肥えた人になった気分で感動しました。

チョコとコーヒーも食べられなくなりましたね。この2つは、カレーの次に大好きな食べ物です。それが、味覚が敏感になった頃に食べられなくなったのです。チョコはカカオ以外の原料を、コーヒーは好きな理由であった風味を敏感に感じ、口にできなくなったのです。

同じ頃、口の乾燥が強くなっていました。口の乾燥で眠りにくくなっていたのです。
そのときに大変役立ったのが、歯科専用ガムでした。この状況を歯科医の知人にお話ししたら、歯科で購入できるキシリトールガムをくださったのです。寝ているときに噛んでも虫歯にならないガムです。

寝ているときは舌の下に隠していたのですが、これは飲み込む可能性もあるので、心配な方は寝る直前に出しましょう。

乾燥を瞬間でも感じたら、すぐにガムを口に入れ、唾液を出し続けていました。大切なのは、予防です。

口をゆすぐ程度で対処していたら機能は低下し続け、唾液が出ないことにより口腔内の洗浄作用が劣ることになると感じていたので、使い続けることで、少しでも機能を止めない作戦を考えたのでした。

使っていれば、脳では指令が出続けます。役割を果たすべき土壌に、少しでも機能させようとする成分や指令が働きかけられ続ければ、使わないでいる状態との差が生まれると思ったのです。

この口腔内の乾燥は、水でゆすぐくらいでは楽になりません。ゆすぐのは、歯磨きも辛いような時期に何かを食べた後に、必ず行うのは良いと思います。

乾燥は、皮膚と同様、粘膜の中から乾燥が湧き出てくるような感覚で、機能低下を起こしているのが分かります。その先では、舌や歯茎、口唇の炎症や痺れ感が現れてきます。

このような、柔らかい歯ブラシでも痛くて歯磨きが苦痛な状態になったときが一度あるのですが、その時の対処法は、歯ブラシの代わりに口腔ケアスポンジのデントスワブ、口腔洗浄・うがい液のネオステリングリーンです。デントスワブは、行きつけの歯科クリニックで教えていただきました。ネオステリンは、歯科でしか購入できないかもしれません。

セルフケアをしていたら、ターンオーバーに順調に乗り、今では唾液は出続け、口内炎や粘膜炎症は起きなくなりました。

抗がん剤の蓄積による副作用は完全に回復しなくても、一次的症状で抑えられると感じています。舌の痺れ感がそのような状態で、ターンオーバーにより回復した頃には、痺れてる…かな!?くらいな感覚です。

私は、抗がん剤投与を行う以前から口腔内は健康で、歯科クリニックで定期的なチェックも受けています。いつも満点の評価をいただいているのですが、それでも、口腔内の症状は起こります。

ココに書かせていただいた内容は、食べられる人の場合です。
治療の内容や、状態が悪化しセルフケアが難しい人は、通われている病院の口腔外科や歯科クリニックでケアしていただくと良いでしょう。

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