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がん様々 1 がんにはならない心と、がんとの出会い

がん患者による、がん患者のための、
がん治療対策マニュアル


1章 私も がんと知り合いになりました

1 心は がんになりませんから! 

闘病記をお話しする前に、まず、私の気持ちをお伝えしておきたいと思います。
私は、乳がんになって、気持ちが動揺したことはありません。1ミリも落ち込んだことがないのです。「病気だ」と感じたことは1度くらいで、「がん様々 0」にも書いたように、治療や副作用研究を楽しんでいます。決してメンタルが強いわけではありません、しなやかなだけです。

治るならいくらでも落ち込みますが、落ち込んでもどうにもならないことには、脳や気持ちが動かないようです。病気なのは身体だけのはずなのに、心まで病気になった気分に陥るケースが多い気がします。
ロジカルに想像できないから妄想する。しかし、妄想はがんを治してはくれません。ロジカルに想像できる材料がないから不安や心配につながるのです。

だからこそ、ロジカルに考えることが大切だと思っています。
「心は がんになりませんから!」というふうに捉え、友人知人やお客様には、発覚当初、私から「どうか心配しないでください。反対に、心配をかけるのが申し訳なくてごめんなさいね……な気持ちです」というメッセージを送りました。
周りの方々が心配してくださる気持ちと自分の気持ちを天秤にかけたとき、自分の気持ちが軽やか過ぎて、申し訳ない気持ちになるのです。

「もう少し“がん患者っぽく”したほうがよいのでは……」と考えたこともありましたが、私の心は以前と何も変わりませんでした。むしろ、以前よりも充実している様子に、「少し残念、笑」「もう少し病気らしくしてよぉ」と笑って言ってくれる方もいらして、私も笑っています。

今では、がん患者にしては、あまりに軽やかなこの心を周りの方々にありのままに受けとめていただき、とても過ごしやすい闘病環境にいます。
そして、皆さんが、言葉にせずともご心配をくださっていることを感じています。


2 「シコリさん」との出会い

2016年12月初旬、お風呂上がりのときのこと――。
顔から足先までスキンケアをしていると、右胸に向かって右上45度の区域で指先が引っかかりました。施術家としての仕事柄、私の指は敏感にしこりを感じとったのです。

これが、私の「シコリさん」との出会いでした。
人間ドックや健康診断は、毎年ではないものの受けていました。しかし、婦人科系は、受けていなかったのです。よくある「自分に限って……」です。

乳がんは、検査してわかるくらいまで育つのに、数年かかると言われています。
年齢や進行速度により違うタイプもありますが、きっと私の「シコリさん」は、長年、地下でゆっくり育って地上へ飛び立つセミのように、身体の内部から表層へと現れたのでしょう。

「まさかなぁ……」と思い始めたのは、実は、発見する数カ月ほど前の夏が過ぎた頃、右乳頭の位置のズレが気になったときでした。
そして、乳頭の位置のズレは次第に顕著になり、同時に右胸が小さくなって、右胸はブラジャーのカップの中で遊べるくらいになっていきました。

また、その頃から右肩関節に四十肩のような痛みと可動域制限があり、その症状は、施術をしても改善が一時的で、繰り返す状態。何らかの原因が潜んでいることは明らかでしたが、その究明には至っていませんでした。
脳裏にはよぎっていた「まさか自分に限って……」です。日頃、このようなお客様がいらっしゃると、「念のため乳がん検診へ行ってみたらいかがですか」とアドバイスしていました。しかし、自身のことは横に置いていたのです。

施術の仕事をしていると、自身で改善できる手立てをもっているがゆえに、こういうことが起きたのです。
施術の最中も、身体に負担がかからないよう正しい姿勢をキープし、負担がかかったら次の動作へ入る前にその筋肉をストレッチする、ということを心がけています。
実際、そのように気をつけていたら、痛みが軽減し、可動域制限はなくなっていました。

この対処をしてもなお残る症状と、病気のことをつなげられなかったのではなく、気になりながらもあえてつなげなかった、心の横に置いておいたのです。
心の「隅」に置くことをしなかったのは、どこかで気になり、経過観察ということで気をそらせていたのでしょう。
日々の生活の中で、たまに気になってはいたものの、見ないふりをして過ごしていました。
本当のところは、何事も経験してみないとわからない、ということですね。

シコリさんとの出会いの1カ月前くらいでしょうか、リンパの腫れの影響を受けていたと思われる神経がつながる部分が、疲れやすくなっていました。
次第に前腕のだるさが現れ、増していきました。リンパが1㎝にも腫れていたことによる神経の圧迫や筋肉のツレがあったのでしょう。
この前腕のだるい症状は、後の右胸全摘リンパ廓清手術により消滅しました。

乳頭のズレと時を同じくして、生理が不定期になっていました。
気にはなっていましたが、ヨワイ46にもなれば、そろそろそんな状態になるのであろうと、またもやお気楽な判断をしていました。
こんなとき、楽に考えてしまうのが私の癖。心配ですぐに病院へ行く方ならば、私のようにシコリさんを育てることはなかったでしょう。違和感との同居生活が長すぎました。

そして生理は、抗がん剤治療とともに消滅してゆきました。
話は前後しますが、通常の抗がん剤治療が終了しても、未だにカムバックしてこない様子からすると、更年期状態へしっかり移行していった模様です。抗がん剤治療をしていると、どうしても婦人科系は老けるので、仕方がありません。
正直、子供を産むという使命がないので、生理がないのは楽です。

乳がんは一般的に、乳がん触診模型にあるように、石ころのように固くて動かず、痛みはないと言われていますが、私のシコリさんは、それとまったく逆の状態でした。
自分で発見した頃は、柔らかく、動いて、ピリピリと炎症しているような痛みがあったのです。いつになってもその柔らかく動くシコリさんは消えず、ピリピリした痛みを感じ続けていました。

最初は、乳がんというより、「生理前だし、乳腺症だろう」という想いが大きく、周りからもそんな意見をチラホラと受けていました。
しかし、専門医の見立ては違いました。その後主治医となってくださったA先生は、初診で触った瞬間、「柔らかいタイプだね」とおっしゃったのです。「見事!」と感じ入りました。
私は、この病気になったことで、専門医の重要性を以前よりも強く感じています。


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