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ジャズバーに行ったことを自慢している、大したことない僕

「行ったことないところ、やったことないこと、挑戦しようぜ」
閉店間際のコメダコーヒーで友に強く熱弁された。

単純な僕は、やってやんぜ!と強く意気込み、人生初のジャズバーに挑戦してみた。

ちょうどブルージャイアントという漫画の影響で、興味を持っていたうえ、ふと歩いていた街中でジャズバーが目についた。

音楽については分からないし、ジャズについても全く分からない。

それでも未体験だったから、挑戦しようと試みた。ジャズにわかの男が足を運んだのだ。

落ち着いていて閉鎖的なジャズバー。一見さんはお断りされるんじゃないか、行ってみたらどうすればいいんだと、何も分からない。

いざ入ってみると、すぐに演奏の音が耳へと入り込んできた。どうやらもう始まっていたようだ。

店員の声は音楽にかき消され、何を言っているかは分からない。話すたびに顔を近づけ合い「え?なんですか?」の聞き返しをする。耳が遠くなったおじいちゃんたちのようになっていた。

予約をしなくてもフラッと入ることができ、前金で入場料とチャージ料、一杯のコークハイ料金を支払って店内へと進んだ。

観客はちらほらと入っていた。自由席だったため、後ろの方へポツンと座る。店内を見回すと同年代の方はいなかった。おじいさんとおばあさん、おばさんとおばさんと…。僕も漫画を読んでいなかったら、行くことはなかっただろう。

舞台上を見ると4人の演奏者がいた。クリープハイプのカオナシさんに似たピアノ。お笑い芸人スリムクラブ真栄田さんに似たトランペットとアインシュタイン稲田さんに似たドラム。そして優しい顔したベースのおじちゃん。

周りの人たちが拍手し始めたので、訳もわからずに拍手をした。

演奏も終わっていないのになぜ?と思ったが、どうやらソロパートを終えた方への拍手であった。

「ほお、ソロパートを終えたら拍手をするのだな?」右指で顎を触りながら自慢げにうんうんと頷いた。これをどこで自慢するかのイメージは全く浮かばなかったけど。

ソロパートの演奏者はとても笑顔だった。ベース、ピアノ、トランペット、そしてドラムと順にソロパートで僕らを魅了した。

勉強不足で理解ができているか分からないが、ジャズは自由な音楽で、僕らを楽しませてくれている。

「音楽は自由で、そして楽しいものだよ」と演奏者は言っていた。僕の耳元でそう呟いた…ように思えた。

メロディーがそう言っている。間違いない。楽器を通して言っているはずだ。疑うなよ、嘘じゃないんだ。信じてよ。

幼少期にピアノを少しやっていた。もう弾けなくなってしまったが、今でもピアノを聴くのは好きだ。

音楽は楽しい。気分が朗らかになる。
そして、時に激しいリズムで心が高揚する。

力強いトランペットの音が僕の胸に響く。
繊細なピアノの音が僕の頭にめぐりこむ。
リズムカルなベースの音が僕の身体を走る。
そしてドラムの音で僕の足元が踊る。

生の演奏は、どうやら身体で何かを感じたようだった。初めての体験で、浮き足立ちながら店内をでた。

一緒に行った友人と、めちゃくちゃ曖昧な感想を言い合った。「なんか凄かったね」「好きな音楽だった」「初めてだけどよかったな」

次の日から「君はジャズを知っているかい?」と自慢げに同僚に話しかけている自分がいる。聞かれた人は皆、眉をひそめて「よく知らない」と言う。

それでもお構いなしに、ジャズ聴いてきたんだと自慢げに話す。

「カブト虫捕まえてきたんだ」と同じ熱量と同じレベルだ。

少し知ったくらいで、少し聴いたくらいで、自分が強くなった気がしたのだ。

それだけ、ジャズの音楽に力をもらえたのだ。

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