姿勢 健康3大要素プラス1
前回は、身体的健康に通常必要とされる3要素【運動、休養、栄養】に先立つ第一の要素として、【姿勢】の大切さをあげました。
今回は、その姿勢についてお話ししたいと思います。
姿勢は地球の重力という外的環境と、わたしたちのカラダの相互作用の表れとして成り立ちます。
重力のない宇宙空間や、浮力のある水中では不必要な、陸上動物であるヒトとしての環境適応行為です。
太古の地球の海中で生まれ、あらゆるカラダのデザイン形態を試みながら爆発的に進化したカンブリア紀の多様な生き物たちは、そもそも姿勢のことなど気にもしていなかったはずです。
その後オルドビス紀末の大量絶滅を生き抜き、海中から陸上のフロンティアへ進出した昆虫の祖先は、そこで重力という思いがけない抵抗に合いましたが、外骨格という強い構造を持つ彼らは、新しい環境に見事に適応して脚や翅を発明し、地上どころか空中にまで飛び立っていきました。
昆虫たちに遅れること数千万年、大陸の衝突による造山活動で河川が生まれ、森林が形成されはじめると、ようやくヒトの祖先である脊椎動物も地上に這い上がっていきました。
地上の乾燥環境と絶えざる重力の下で彼らが自由に移動するためには、骨格を強化してカラダを支えるとともに、それを動かすための運動器系を整備する必要がありました。
そこで彼らは、胴体の皮筋節とは別系統の遊離筋を発達させることで前肢後肢を作ってその上に胴体部を浮かせ、地面を這いずることなく地上世界を機敏に動き回れるようにしました。
またエネルギーを大量に消費する運動器官のために血液供給路を確保し、血液循環のコントロールのための新たな自律神経系として、交感神経を作り出しました。
地上の重力の中で脊椎動物が4本の脚を使って動き回る体勢は、両生類から爬虫類、哺乳類へと進化する過程で見事に完成し、素晴らしい運動能力を獲得しましたが、数百万年前のヒトの祖先は、この安定した体構造を自ら捨ててイノべーションを起こし、2本脚となることを選びました。
4本脚や3本脚に比べて2本脚でカラダを支えることが、安定性からはほど遠く非常に難しい行為である事は、人形遊びをしたことがある方ならお分かりだと思います。
立体構造であるカラダを2点で支えるためにはかなり大きな接地面の面積か、もしくは倒れそうな方向を感知しながら重心を移動させ続けるための動的なバランスが必要です。
細い2本の脚でカラダを自立させるためには、地面と接している両足の間の適切な位置の上に、常にカラダの重心を置いておくための運動性が求められるのです。
ヒトのカラダの重心(COG: Center of Gravity)の位置は、骨盤の内側にありますが、腕や頭などの動きに応じて絶え間なく移動しているため、立っているときには須らく、傾いたり倒れたりしないよう両足間の支持配分を微妙に調整し続けています。
横から見ると、足部が作る支持基底面の真上で、足関節、膝関節、股関節、肩関節など、カラダを支える骨格の各関節部が、垂直な重心線上に並んでいることを求められます。
ヒトは両腕をフリーにして、大脳を大きく重たくできるように、わざわざ直立したのだと思われますが、その一方で重力とのおつきあいは、より複雑で難しいものとなりました。
腰痛や膝痛、肩こりなどヒト特有のカラダの緒症状は、数百万年前祖先が選択した直立姿勢が根本原因であると考えられます。
それらの症状の解決法としては、自分自身のカラダの重さや状態を意識的無意識的に感じながら、重力と上手に適合させられるカタチ=姿勢を身につけることしかありません。
姿勢についての理解は、ヒトがヒトとして選択した生き方の方向性を確認し直し、地球という環境との接点を見出して、それを実感実践していくことにつながっていきます。
次回からは、立ち姿勢、座り姿勢、寝姿勢と分けて、それぞれ説明していきます。