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都市の誕生。F.ブローデル編『地中海世界』摘読(4)「ローマ」を読む。

文化の読書会、『地中海世界』摘読第2回です。この読書会の経緯については、第1回のnoteをご覧ください。

【摘 読】

歴史は地理的要因を考慮に入れなければならない。ただ、その地理的要因は他の経済的、社会的、文化的諸要因と関連させて初めて決定的な重要性を帯びる。ローマの場合、その立地的条件は稀なほどに恵まれてはいたが、一連の歴史的出来事の結果として、そう見えてくる。

紀元前770年ごろに先立つ数十年前には、農機具の改良や増産、人口増加、大規模な永住地の創設、こういった現象が明らかに密接に関連しあって生じていた。そして、これらは分業の促進を惹き起こした。こういった経済現象は、経済的・社会的格差をも生んだ。こういった社会経済的前提条件に加え、ローマの立地条件が重なって「都市」が生まれることになる。

中部イタリアからローマを貫いて流れるテーヴェレ川を超えなければ、北部イタリアのエトルリアと南部イタリアのマグナ=グラエキアのあいだの交通はできない。ローマは、交通の重要な要衝としての位置にあったわけである。ローマという都市国家それ自体が、道路網の構造化の結果として、紀元前600年ごろに生まれたのである。

都市という空間は、今まで村落と村落の間にあった無人の空間を部分的に摂り込み、構造化し、それを衝突の場から出会いの場、両者同意のもとに制度化され定着した協議の場としてのコミティウム(もともと「共に歩む」「共に集う」という意味を持つ)へと変貌させた。それまでの血なまぐさい戦争が次第に「言葉の戦争」、つまり政治(ポリティーク)へと姿を変え、都市(ポリス)が生まれたのである。そして、都市は中心点と境界を設定することで、都市から排除される地区や人を生み出すことになった。

それだけではない。都市は時間の組織化をも促した。暦の誕生である。当初は、複数の村落の寄り合い所帯からなっていた歴史的結果を示すように、違った月に種々の元日が存在していた。

その後、市民集団の拡大という現象が起きた結果として、多種多様な民族の進出によって著しく拡大された社会的基盤を有することになった。これは広い意味での民主主義と呼べる政治形態を生み出し、きわめて大きな文化的均質性をもたらした。

ただ、そういった最も充実した時期は紀元前4世紀から3世紀を超えることはなく、ローマの覇権が確立していく。いわゆる「帝国主義」の最初の発現である。交換価値を重視する経済的動機は、ローマに貨幣の誕生をもたらした。このような帝国主義的な傾向によって、もともとあったそれぞれの小国家群は、小さな都市国家(ポリス)並みの大きさに合わせてるつくられた政治組織しかもっていなかったために、崩壊していく。

一方、政治の面でも安定が消滅した。元老院の寡頭政治の縮小が進み、いくつかの門閥が権力を独占したことで、下からの改新の試みにことごとく反対するようになった。そこからくる社会的緊張を抑えるために、プロレタリアート大衆のはけ口として職業的軍隊が創設され、また古イタリア人にローマ市民権が認められるようになった。これによって、それまでの原初的な都市国家の不安定な構造を決定的な崩壊へと導いたのである。

【小 考】

本章では、ローマの生成を通じて、都市という存在が人間社会にとってどのような特質を持つのかが考察される。

都市が誕生するには、もちろん地理的要因はきわめて重要である。しかし、その地理的要因を駆使して、人間がどのように生活してきたのかも併せて考えなければならない。当初は生存のためだけの生産であったのが、次第に交通 / 交易が盛んになると、他者のため(販売や輸出)の生産へと移行していく。こういった生活様式の変化は、技術や知識といったartifactだけでなく、ローマの場合であればテーヴェレ川、エトルリア⇄マグナ=グラエキアといった地理的要因に即した人間の動きによって促進されるわけである。

その結節点として、ローマという都市が生まれた。都市というのは、人が集積するがゆえに、言葉による戦争という側面を持つ政治(ポリティーク)を生み出し、それによって成り立つ都市国家(ポリス)をかたちづくることになる。

ただ、この都市国家が覇権的な遠征によって統合されていくと、もともとの小規模性を前提とした政治機構(political mechanism)は通用しなくなり、崩壊していくことになる。このあたり、企業の成長の可能性を論じたペンローズの議論を想起させる。

最近、関心を持ってみているマンズィーニ(Manzini, E.)のPoliticsをめぐる議論とも重ね合わせて考えると、きわめて興味深い。都市にせよ、企業にせよ、人間の協働によって成り立つ共同体の生成と発展、そして衰退の原理を、このローマの歴史は示してくれているようにさえ感じられる。

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