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喫煙自販機 │ 超短編小説

僕と山田の出会いは自販機だった。
潰れた駄菓子屋の前に残った自販機。駅から離れているし、道路からも離れている。人通りも少なければ、車の通りもない。
そんなところで彼女が自販機でジュースを買っていて、僕はその横のベンチで絵を描いていた。

「すみません、コーラ買ったら一緒にお茶も出てきちゃって。……要ります?」
声をかけられ急いでスケッチブックをしまう。
「あ、欲しいです。ありがとうございます」
僕がすぐに手を伸ばして受け取ると、満足と驚きが混じったような表情をした。

「まさか受け取ると思ってなくて、ちょっとびっくりしました」
彼女が僕の隣に座ってコーラを飲む。僕もお茶を飲んだ。美味しかった。
今までのどんなお茶より美味しい気がする。優しい味が冷たさとともに喉を通り過ぎていく。

「本当にありがとうございます。めちゃめちゃ喉乾いてたんですけど、今現金なくて」
嘘をついた。
本当は銀行にも電子マネーにもお金がないのに、咄嗟に現金だけがないように魅せた。

「あー、この自販機、現金しか使えないですもんね。今どき珍しく」
困りますよね、と首を傾げて誤魔化した。
彼女は僕の相槌を笑って流しながら、タバコを吸い始めていた。

「タバコ、珍しいですね」
「そんなことないですよ。世が非喫煙者が多いように魅せてるだけです」

なるほど、と頷いたら少し間が空いた。ゲームを再開させようか迷ったが、彼女が携帯を出していなかったのでやめた。

「ていうか、お兄さんこんなところで何してるんですか? 私はタバコ吸いに来たんですけど。……吸わないですよね?」

絵を描きに来た、と答えたらどんな反応をされるだろう。まず、なんの絵か問いただされるはずだ。漫画家だと言えば、数々の週刊誌と月刊誌を出してきて「どれ?」と聞かれるだろう。
どの雑誌にも載せてもらえていないから、肩を落とされるに違いない。

「休憩です。駅まで歩いてて」

そうなんですね、と彼女が頷いて間が空いた。
嘘をついた罪悪感をお茶で流し込む。

「本当は絵を描きに来たんです」

流し込み切れずに真実が口から出た。

「そうなんですね」

また間が空いた。

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