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かぐやひめ | 超短編小説

月の満ち欠けで地球が回っていることを感じられて好き。
大きな声で言わなくても、月はいつだって綺麗だから、中秋の名月は団子を食べるに限る。
ほのかに砂糖の味がする塊は唾液に溶かされ、口の中から徐々に消えていく。

かぐや姫は月から来たと言うから、竹は月と地球を繋ぐトンネルだと考え、竹は買ってきてある。
花屋には「ススキですよ」と指摘された。
かぐや姫と同じようにチート宇宙旅行がしたいだけで、別に十五夜を楽しみたいわけではない。よってススキはいらない、と断った。

異物を見るような目をしていた。若い女の店員だった。

かぐや姫が残したメッセージには、移動方法は載っていなかった。わたしは毎年、勘で月に行く方法を探っている。

実際にかぐや姫と会った日は、地球の美しさを語られた。

「こんなにも小さい動物がいたり、こんな大きな動物がいたり、地球は豊かで美しい」

興奮して話すかぐや姫に、少し引いた。

同じように、わたしたちは月を美しいと思っている。何もなくて、灯りのような月は地球のようにうるさくなくていい。
敢えて地球の汚い部分は話さなかったが、かぐや姫は月に帰る日、言った。

「地球が美しいことは変わらないが、人間は地球を毒に漬け込んでいる。だから、わたしはずっとこの星には住めない」

地球生活を楽しんでいるように見えたし、わたしは特に地球の悪いところは話していない。だから、かぐや姫はずっと地球にいると思い上がっていた。

百聞は一見にしかず、一度かぐや姫を刺した地球の毒針は一生抜けることはないのだろう。

かぐや姫との別れは惜しかったが、毎年メッセージは届く。

「地球上の人間っていう強い生命体が作って、機械ならと、わたしを1人月に置き去りにした人間は許していなかったけれど、地球であなたが案内してくれて良かったと思っている。月なんて空気がうっすいところに人間が来たら、必ず死んでしまうから、来るなら死ぬ気で来ること。あなたがまた地球からこちらに来そうな気配がした」

人間は愚かで、作った機械に餌をやらない。
かぐや姫が機械だということは出会ったときに告げられていた。だから、寂しくなかった。
わたしもまた、愚かな人間だ。

わたしは毎年、月に行こうとするのをかぐや姫からの連絡で止められている。
今年もまた竹をノコギリで切り、湯呑みにしてお茶を啜る。

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