ベランダ喫煙 ┃ 超短編小説
サリーを家によんで寂しさを紛らわしている。
わたしは落ち込んでも、わたしだけは落ち込んでも1人でなんとか凌げる人間だと思っていたのに。どうやら人並みに人に頼る必要があるみたいだ。
穏やかな風が通るベランダでわたしはサリーとたばこを吸う。わたしが最近駅近くの喫煙所で出会った男の人が気になっているという話をした。
「その人のこと、好きなの? 一目惚れみたいなこと?」
サリーはわたしに訊く。汚れていないふりをしてわたしをみるその瞳が年上なんだ、とはっきり感じさせる。
「星と月の間みたいな存在だと思ってる」
そういうとサリーは、なにそれ、と笑った。
ふと見上げた時に思い出すけど、月や星のようにはっきりは見つけられない。ここ二ヶ月ずっとあの人に対して感じていたものを、わたしは初めて他人に話した。
「月とか星みたいに、生きているかどうかもわかんないし、何をしてんのかもわかんない。悲しんでいるのかも、喜んで楽しんでいるのかもわかんない。でもまっすぐに信じたいとは思う。月ほど大きくもないし、星ほど輝いてもいないけど、ずっとわたしから見える場所にはいてほしいと思うんだ」
「難しいね」
「……なんかさ、難しいなんて言葉が簡単に使えるからこの世の中は難しいことで溢れかえってるんだなって思った」
サリーはため息をついて、あんた変わんないね、とたばこの火を消した。
「サリーもう一本吸う?」
「ううん、コーヒー買って来る」
「わたしのエナジードリンクも買ってきて」
変わんないのはサリーも同じだった。わたしの発言をするすると流していくところも、わたしのどうでもいい話も真剣に聞いてはくれるところも、わたしのことをいちばんに思ってくれているところも。わたしの前では強く魅せてくれるところも。
わたしが大好きなままだった。
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