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レンタルビデオショップの日々。


こんにちは!山野靖博です!

何を隠そう僕自身も、世界中にたくさんいるであろう、映画によって人生を救われた者のうちの一人である。

とはいえ、そんなに大逸れたことじゃない。いざ明日自分の命を断とうと思っていた夜にひとつの映画を観て死ぬことを諦めたとか、そういうことではない。

むしろ、もっと地味なタイプの救われ方だ。そんなにドラマチックじゃない。

20歳になるかならないかの頃、僕はこの国の多くの若者とおんなじように、学校に通って日々いろいろな人と顔を合わせ会話をし、ときには笑い合ったりもするが同時に、得体の知れない孤独をいつもふわふわと抱きしめていた。

そういう孤独というのは、自分自身がまだ誰だかわかっていない不安に起因するものだし、そんな不安を感じていられるのも目の前に手付かずの時間がたくさんあって生活に余裕があることの証左でもある。

やるべき仕事がいくらでも降ってきて、それをこなしていくのに必死な時代に自分の年齢が突入すれば自然に消えていくタイプの不安であり孤独だ。(もっとも、仕事に忙しい中でそういう不安や孤独が消えていっても、また違った不安や孤独が首をもたげてくるのも皆さんがご存知の通りだがそれについてはここでは触れないことにする。)


孤独の紛らわし方は人それぞれだ。そして、僕にはそれが映画だったということだ。

今は懐かしきレンタルビデオショップに2〜3日にいっぺんは通う。レンタル料の高い新作や準新作の棚の前は素通りして、旧作の膨大な棚の中から気になるディスクを選ぶ。僕の大学時代はすでにDVDレンタルが主流だった。

夜、寮のひとり部屋にこもって、親から買ってもらったノートパソコンでDVDを観る。1本観終わったところで寝ればいいのにそれもなんだか気に食わなくて、もう1本も観る。とうぜん翌朝、寝不足で起きる。そんな日々だった。


そうやって観た映画たちは、面白いものもあったし、面白くないものもあった。当時はよく理解できなかったものもあったけど、よくわからないなぁと思いながら画面を眺めていた。

すべてが傑作だったわけじゃないが、決して傑作ではなかったものでも、観たことが無駄だったなと思ったことはなかった。

こんなに面白くない映画を世に出して、それに出演したり参加したりして、それでも生きている人たちがいるんだなぁと思って、ひとりでクスクス笑ったりもした。それでいいんだなぁ、とか思った。


たとえば『今宵、フィッツジェラルド劇場で』。あるいは『テラビシアにかける橋』。『イル・ポスティーノ』。『ウォルター少年と夏の日』。『黄昏』。『ジョンとメリー』。

こういう映画が、レンタルビデオショップの棚にはなんとはない顔をして並んでいた。

別に、大人気作というわけではない。常に何人もが借りることを熱望しているといった作品ではない。もしかしたら数年、貸し出されたことがなく、ずっとその棚に鎮座していたのかもしれない。

僕はそういう映画にレンタルビデオショップの棚で出会い、なんだかわからないなぁと思いながらそれを借りて、夜な夜な寮の自室にこもって観続けていた。


そういう時代はいつしか過ぎた。いつの間にか僕も人並みに働き、疲れ、暮らしている。

そんな中で映画を観たくなるときがある。レンタルビデオショップはほとんど絶滅してしまったから、多くの人と同じようにサブスクの映画サービスを利用する。

でも、探しても観たい映画がない。

レコメンドされる映画もドラマも、どれもなんだか大袈裟で、どれもなんとなく自分のその瞬間の心の形に合わない。

しょうがないから検索をかけてみる。けれどサブスクサービスには『今宵、フィッツジェラルド劇場』はないし、『イル・ポスティーノ』もない。

どうなっちゃったんだ世の中は。派手でスタイリッシュで金のかかった、世界中の100万人が喜ぶ映画しか観れなくなっちゃったのか。『テラビシア』のアナソフィア・ロブの、あの聡明な孤独さは失われてしまったのか。


きっといまの時代に生きている若者は、いまの時代なりの何かでその孤独を紛らわせているんだと思う。

それはそれで自然なことだし、僕が過ごしたあのレンタルビデオショップの日々に比べて劣っているとも思わない。

とはいえ、少しだけ虚しく感じる気持ちもある。数週間か数ヶ月か、ものによっては数年は貸し出されずに棚に置かれ続けていたDVDみたいな映画は、サブスクにはないんじゃないか。

常にデータが収集されて、あまり人気のないものはどんどんデータが取り下げられていくのではないか。かなり、リアルタイムに。

時代の人気に取り残された作品に救われたあの日の僕のような若者が、もしも今を生きるとしたら。いったい何処へ辿り着けばいいのだろう。


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