書評『ツナグ』は心に響く!死者と生者を繋ぐ感動の物語

辻村深月さんの小説『ツナグ』は、一度だけ死者と再会できる機会を提供する「使者(ツナグ)」を描いた連作長編小説です。

この物語は、死者との再会を望む人々と、その願いを叶える「使者」の視点から綴られています。

読み進めるうちに、登場人物たちの切ない思いや、彼らが抱える葛藤がリアルに伝わってきます。

本作は、死者との再会をテーマにしているため、人生や死、そして生きる意味について深く考えさせられる内容となっています。

使者とは何か?その役割と意味とは?

『ツナグ』のタイトルにもなっている「使者(ツナグ)」とは、死者と生者を一度だけ引き合わせる仲介人です。

この役割は一見すると夢物語のようですが、生者が死者に会うことを望む理由は人それぞれです。

例えば、突然死したアイドルに会いたいと願うOLや、母親に最後の別れを告げることができなかった息子など、それぞれの物語が丁寧に描かれています​ 。

使者は、あらかじめ決められた日程で一度だけの再会を仲介します。
この再会の機会は、死者が生前に果たせなかった思いを伝える場でもあり、生者が抱える後悔や悲しみを癒す場でもあります。
しかし、この再会は一度きりであり、その後再び会うことはできないという厳しいルールが存在します。
このため、生者が伝えたいことを限られた時間内で伝えることの重要性が強調されます。

各章の魅力は?どんな物語が描かれているのか?

『ツナグ』は、様々なエピソードが収録されている連作短編小説です。

それぞれの物語は、死者との再会がもたらす感動や、それにまつわる葛藤を描いています。

特に「親友の心得」では、事故で亡くなった親友との再会を願う高校生の嵐が登場し、彼女の心の中に秘めた嫉妬や罪悪感が克明に描かれています。

この物語は、再会が必ずしも幸福をもたらすわけではないという現実を突きつけ、読者に深い考察を促します​ 。

また、他の物語では、家族や恋人、友人との再会が描かれています。

それぞれのエピソードは異なる背景や感情を持ち、再会が生者にもたらす影響も多岐にわたります。

ある人は再会を通じて前向きに生きる力を得る一方で、別の人は再会がさらなる悲しみをもたらすこともあります。

このように『ツナグ』は、生者と死者の関係性を深く掘り下げ、人生の儚さと美しさを描き出しています。

ツナグの心境とは?使者の葛藤と成長

使者である少年・歩美もまた、物語の中で大きな役割を果たします。

彼は自身の家族にまつわる過去や、使者としての使命に葛藤しながらも、生者と死者を繋ぐ役割を果たします。

最終章では、歩美が「もし自分が死者に会えるなら誰に会いたいか」という問いに直面し、その答えを探していきます。

この過程を通じて、歩美の成長や彼の心の内が描かれており、読者は彼の苦悩や決断に共感するでしょう​ 。

歩美は使者としての役割を果たす中で、様々な人々の思いと向き合います。彼が受ける依頼は、ただ単に死者と再会したいという願いにとどまらず、再会によって自分自身を見つめ直したいという願望も含まれます。

このような依頼に対して、歩美は自身の立場を超えて真剣に向き合い、依頼者たちに寄り添う姿勢を見せます。

しかし、その一方で、自分自身の過去や家族との関係についても向き合わざるを得なくなり、使者としての葛藤が描かれています​ 。

総評:『ツナグ』はこんな人におすすめ!

『ツナグ』は、感動と切なさが入り混じる物語です。

死者との再会というテーマを通して、人々の心の奥底にある感情や思いが描かれています。

感動系の作品が好きな方や、人間の内面に迫る物語を楽しみたい方には特におすすめです。
辻村深月さんの巧みな筆致に引き込まれ、ページをめくる手が止まらなくなること間違いありません。登場人物たちの感情が細やかに描かれており、読者はそれぞれの物語に深く共感することでしょう。ぜひ、一度手に取ってみてください​。


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