#筏井嘉一
私の好きな短歌、その34
寝るまへのこころすなほになりきたりふところに猫をいれて枕す
筏井嘉一、『荒栲』より。(『日本の詩歌 第29巻』中央公論社 p219)
作歌当時の作者は、父を亡くし、母と二人で上京して、苦労の中にあったという。何かしら嫌なことがあっても寝る間際に猫が布団の懐に頭を突っ込んできて喉を鳴らし始めたら、いったん嫌なことは忘れて猫を撫でる、そういうことが自分にもある。それがよく分かるからこの歌が好き
私の好きな短歌、その35
家へ帰るただそれだけがたのしみにてまた一日の勤めをはれり
筏井嘉一、『荒栲』より。(『日本の詩歌 第29巻』中央公論社 p221)
この当時作者には妻と一人の娘がいた。日々の実感を呟いたらそのまま短歌の31文字になっていたかのようだ。家庭の幸せと、仕事はそれほど楽しくないという不幸せが一首に無理なく表現されている。
調べという点では、上三句が少々ガチャガチャしているように感じるが、それよ