#松村栄一
私の好きな短歌、その22
兵一人あまさず死にて言絶えしアツツの島を誰(たれ)か忘れむ
松村英一、歌集『標石』(『日本の詩歌 第29巻』中央公論社 p121)より。
第二次世界大戦、昭和18年5月29日、アッツ島玉砕のニュースに接しての歌だという。私はアッツ島玉砕という言葉を知ってはいるが、「誰か忘れむ」という感情が起こるほどの臨場感は伴っていない。一首はまさにその臨場感の中で歌われたものだ。時は過ぎ、昭和が平成となり
私の好きな短歌、その23
防水の利(き)かなくなりしわがリユツク背負ひつづけて今日また背負ふ
松村英一、歌集『落ち葉の中を行く』(『日本の詩歌 第29巻』中央公論社 p129)より。
作者は山登りが好きだったという。この歌集が刊行されたのは昭和44年(1969年)であり、このとき作者は80歳なので一首はおそらく70代の作ということになる。長年ともに山に登ってきたリュックなのだろう。気に入ったものを使い続けるという