2021年4月の記事一覧
私の好きな短歌、その3
中村憲吉、歌集『軽雷集以後』より(中央公論社『日本の詩歌 第6巻』p230』)。
真むかひの山家のなかは西日射しあからさまなる仏壇のみゆ
「秋の山田」中の一首。憲吉が帰郷して家業(蔵元)に従ってからの作。山間の里では、川に沿った平野部分は水田にして、住家は少し上がった山腹に建っていることがある。家が西に面していると、下の田が山影に入っても、家にはしばらく西日が差し込む。そこに「あからさまな
私の好きな短歌、その4
中村憲吉、歌集『軽雷集以後』より(『日本の詩歌 第6巻 p238』)。
病む室の窓の枯木の桜さへ枝つやづきて春はせまりぬ
『日本の詩歌第6巻』の憲吉の章では最後の歌。「窓前」という題がある。これが憲吉の人生最後の歌なのかどうかは分からないが、この桜が咲いた後、5月5日に死去したと注にある。桜の枝がつやづくとは、どんな感じだろうか。見た目に分かるものなのだろうか。晩年病がちだった憲吉は、自分の
私の好きな短歌、その5
夕まぐれ音をひそめて帰り来し子どもは雨に濡(ぬ)れてをるかも
島木赤彦、歌集『切日』より(『日本の詩歌 第6巻』中央公論社 p20』)。
「赤罌粟の花」中の一首。罌粟が咲くのは初夏という。なぜ子どもが音をひそめて帰ってきたのかは分からないが、子どもは濡れている。情景は明白だが、すべてが明らかではないという魅力がある。子供は雨に濡れてしょんぼりしているのか、あるいは何かに夢中で雨に濡れることを