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【寝かしつけ】生活の中の黒い布(2024.03.03)
幸い、色んな事が上手くいって子供たちの歯磨きまでが早めに済んだ。そのままスムーズに行けば私や妻は少しくらいは自分の時間を楽しめるはず。21:40に床に着いた子供たち。今日はポケモンを1話だけ見せるに留めておいた。多少歯磨きの仕上げもいい加減だった。
いつものように布団の上でなかなか寝ようせずに声高らかに自分の要求や不満を訴え続けている次男。なんでもない事をまるでこの世が終わるみたいに必死に私たちに訴えては涙している。
私はだから、今日も「怖い話」をした。
黒い布
昼間。家の前に空から黒い布が垂れている。どうやら雲から垂れているわけではないみたいで、その黒い布は家のすぐ前の、ほぼ私道みたいな車通りの少ない道路の真ん中に静かに垂れたまま動かない。
「なんだろうな」と思って家族がかわるがわる布を観察する。布は、布のようだがそれがどういう生地なのかよく分からない。近くに寄って見てみると、観察される事を拒否するみたいに焦点が合わなくなる。
道路の真ん中に布は垂れていて、明らかに交通の邪魔なのだが、車がそこを通る事はなかった。たまたまどの車もひとつ向こうの通りを通っているみたいだった。
夕方を過ぎて夜になり、それでも布はそこに垂れ下がったままだった。細い月が出ていた。空には僅かに雲があって、相変わらず布がどこから垂れているのかよく分からない。
どうも布の事は私たち以外誰も気にしているようではなかった。警察が見に来る事もなかった。我が家はなんとなく布の事は忘れてそれぞれ眠った。
私は皆が眠ってからここぞとばかりに酒を飲んだ。楽しかった。家の中で家族が眠っている事を忘れるくらい静かな夜だった。
良い感じで酔っ払い深夜2時、ふと布の事が気にかかり、布を見に家の外に出た。布はまだ昼間と変わらずそこに垂れていた。近くに寄ってじっと見てみると、布もこちらを見ていた。吸い込まれるような感覚があった。触ってみようと思った。手を伸ばして、右手の中指が布に触れた。
そうして私は消えた。布も消えた。細い月がかすかに辺りを照らしていた。
最後まで話してしまわないうちに長女と次男は眠ってしまっていた。長男はまだ起きていて「怖かった」と言っていた。そしてリビングで声を潜めて笑っている妻を置いて、私も早めに寝た。