LOCAL TRIBE vol.4 「田舎に向けられる視線」(繊研新聞2024年3月)
田舎に向けられる視線
「地方創世」という言葉が注目されたのは、2014年の第2次安倍改造内閣発足後の記者会見で発せられてからでした。そこから10年が過ぎましたが、残念ながら以前よりも地方が活気付いたような実感はありません。むしろ、私のようなひねくれ者は、地方創世という言葉が乱用されるたび、都会からの上から目線を感じてしまいます。それをはね返せるかどうか、地方創世とは地方都市で生きる我々の実力が問われているのかもしれません。
ヘリテージを活かす覚悟
今回ご紹介するのは、昨年10月にオープンした現代工芸作家の作品を扱うギャラリー「一初(いっぱつ)」。岡山で二十年以上に渡り衣料品店を営んできた株式会社イエージ (CASANOVA&CO ) 代表であり、服飾レーベル SOUMO のデザイナーでもある山本雄太氏が現代美術家の橋爪悠也氏と共同で立ち上げました。
場所は岡山県北部に位置する建部町という片田舎。一初の建物は、明治二十年に建築された酒造業の旧家屋を改築したもの。100坪を超える敷地の中には展示スペースのほか、拘りぬかれた茶亭も設けられています。岡山市中心部から車で約1時間とアクセスの良い場所ではありませんが、「ここにしかない場所」が新たに生まれました。
古民家再生のアートギャラリーと聞けば決して珍しくはないのかもしれません。大手セレクトショップなどがカフェや書店を併設したり、エッジの効いたコンセプトで他業種のお店を展開することも一般化しました。しかし、そういった動きは依然として都市部に限定的です。
一初のように、本当の中山間地域でセンシティビティの高いギャラリーを立ち上げ、維持管理していくには相当の覚悟が必要なことは想像に難くありません。
都会にできないこと
山本氏が経営するセレクトショップCASANOVA&COは元々はオーセンティックな古着屋でした。アルチザンブランドや気鋭のデザイナーズブランドを扱う現在の業態に転換しておよそ10年。業界でも一目置かれる存在となり、いまや岡山を代表するショップとしての地位を確立するまでになりました。
「新しいことを始めてからオーソライズされるまでには時間が必要です。一初も10年くらいはかかるかもしれません。ただ、既に素晴らしい作家さんたちの展示が続々と決まっていて、どれもスベれないというプレッシャーはあります(苦笑)。自分が惚れ込んだこの場所でしかできない鑑賞体験やプレゼンテーションを行いながら、一初が地域のコモンを再生するような役割も担っていければと思っています」(山本雄太氏)
田舎への憧れや地方都市への期待を口にする人は増えましたが、いまだ具体的なアクションは少なく、それは特別ユニークなものとして扱われています。人口や経済規模ではこの先もきっと敵わないでしょう。しかし、地方にはファッションやアート、文化の面で「都会にできないこと」を実現するポテンシャルがあります。必要なのは始める勇気、続ける覚悟を持った人が後に続くこと。その連なりが地方創生なのだと思います。
LOCAL TRIBE vol.4 「田舎に向けられる視線」(繊研新聞2024年3月15日付)