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あなたも新種を発見できる!? 『新種発見! 見つけて、調べて、名付ける方法』ってどんな本?

12月17日発売の新刊『新種発見! 見つけて、調べて、名付ける方法』。
21人の執筆者による、日本国内における新種発見のエピソードを収録しています。
実は本書は、Twitter上の“あるタグ”がきっかけで誕生しました。
今回は本書の背景と見どころがわかる、
はじめに「新種発見って何だ?」を公開します!


新種発見って何だ?  文=馬場友希

みなさんは「新種」とは何か、ご存知でしょうか?
新種と言うと、遺伝子操作や突然変異で地球上に新たに誕生した生命体を想像する人も中にはいるかもしれません。しかし、そうではありません。新種とは、新たに発見された生物種のことを指します。

この地球上には推定870万種もの生物が存在すると言われていますが、そのうち学名が付けられている種はわずか150万種。つまり、全体の約80パーセント以上の種には、まだ名前がつけられていないことになります。このような生きものを適切な分類学的位置に整理し、学術的な名前(学名)を命名する行為は、分類学の研究分野で新種記載と呼ばれています。そう、本書『新種発見!』はタイトルのとおり、未知の生物が発見され、その生物が新種として記載されるまでの過程を紹介する本です。

申し遅れましたが、私は節足動物のクモの研究者です。野外調査で未知のクモを見付け、時に自分自身で新種を記載することもありますが、分類学が専門というわけではありません。そんな私がなぜ編著者の1人として今回、分類学の書籍に関わることになったのか、まずその一風変わった経緯をお話ししたいと思います。

あれは2021年の夏のこと。新型コロナウイルスが猛威を振るう中、私を含む家族は不運にも感染者との濃厚接触者となり、1か月近く外出できない状態となってしまいました。隔離期間中は思うように仕事ができず、さらに休日も外出ができないため、私の唯一の楽しみと言えばインターネットくらいです。ぼーっとSNSのTwitterのタイムラインを眺めていると、新種の発見に関する大変面白いツイートが流れてきました(このツイートの投稿者こそ、本書のもう1人の編著者である福田宏先生でした)。

コロナ禍で久しく野外調査やクモ採集にも出られていなかったことから、この新種発見記はとても印象に残るもので、まるで自分自身が未知の生きものを発見した時のような高揚感・喜びを追体験することができました。私のタイムラインには分類学者や自然愛好家が多いので「皆が同じように新種発見時のエピソードを披露したら面白いのでは?」と軽い気持ちで、「 #新種発見のエピソード 」というハッシュタグを作りました。自分自身もこのタグを付けて、クモの新種発見の体験記をツイートしたところ、なんということでしょう、このタグの存在に気付いた方々がつぎつぎと新種発見のエピソードを披露し始めたではありませんか。Twitterの140文字という文字数制限がありながら、どれも新種を発見した時の興奮がリアルに伝わる濃厚なエピソードばかりでした。

また、対象生物や発見の経緯もバラエティーに富んでおり、まるでオムニバス形式の短編小説を読んでいるかのようでした。私は職業柄、新種の記載論文を読むことがあるのですが、論文は採集記録やその種を特徴づける形態的特徴が淡々と記述されているだけですので、正直、読み物として面白いものではありません。ですから、個々の記載論文の裏側にこんなにも熱く豊潤なエピソードが秘められていたことに驚きを覚えました。

このタグで披露されたエピソードの中には1万以上の「いいね」を獲得したツイートもあり、大きな反響がありました。この一連の盛り上がりが「山と溪谷社いきもの部」アカウントの中の人の目に留まり、2021年の秋頃、「Twitterの新種発見のエピソードを基にした本の制作に協力していただけませんか?」という連絡をいただきました。光栄な話と思いつつも、分類学が専門でない私には正直荷が重いと思いました。しかし、新種発見エピソードの中でもひときわ注目を集めたサザエの新種記載のエピソードを披露された、分類学者の福田先生も編著を担当されることを聞き、「本職の方がいれば大丈夫」と大船に乗った気持ちで今回の企画を引き受けることにしました。

そのような経緯で作られた本書は、1章「陸地で発見!」2章「水辺で発見!」そして3章「こんなところで発見!?」と新種発見のシチュエーション別に整理された3章から構成しています。中でも3章は、Twitterの投稿やデータベース等をきっかけに新種の発見に至ったという現代ならではの新たな分類学の展開を知ることができます。本書の全19新種のエピソードは、対象分類群は植物、菌類、動物、さらに化石に刻まれた古生物に至るまで多岐にわたり、どれも新種発見の驚き、喜びを追体験できるものです。

また、本書の著者には分類学が専門でない研究者や自然愛好家にも参加いただいています。実は、新種の発見は分類学者の専売特許ではなく、むしろ専門外の人のほうが先入観に捉われず、新たな視点から未知種の発見に至るケースすらあるのです。ですから、この本を読まれているみなさんにも、新種発見のチャンスは十分にあります

冒頭でも述べたように、地球上には未知なる生物種が数多く存在しています。そもそも生物の分類がなされなければ、「どんな生きものがいるのか?」「どのくらいの種がいるのか?」すら認識できないわけですから、分類学は生物学の基盤を築く重要な学問分野と言えます。
しかし、生きものの名前がどのように付けられるか、その過程は意外なほど一般の人々には知られていません。この本を通じて「分類学って面白そう」「自分も新種を見つけられるかも」など、少しでも多くの人が分類学の世界に関心を持っていただけると嬉しいです。それでは早速、「新種」発見の旅に出かけましょう。

(『新種発見! 見つけて、調べて、名付ける方法』p6〜9より)


【編著】
馬場 友希(ばば・ゆうき)
1979年福岡県生まれ。昆虫写真が趣味の父の影響により、幼少のころより生き物に興味を持つ。2002年九州大学理学部生物学科卒業、2008年東京大学大学院農学生命科学研究科生圏システム学専攻博士課程修了。博士(農学)。国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 農業環境研究部門・上級研究員。

福田 宏(ふくだ・ひろし)
1965年山口県生まれ。物心ついたころから貝類の採集に没頭。博士(理学)。岡山大学農学部助教授を経て、2007年より岡山大学学術研究院環境生命科学学域(農学系)水系保全学研究室准教授。分類学者として多くの貝類の新種を記載する傍ら、環境省レッドリスト・レッドデータブックの編纂や軟体動物多様性学会の運営にも携わっている。軟体動物多様性学会のTwitterアカウントの中の人として、貝類の分類、生態、保全について発信中。

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