【第83回】教育を受ける権利② #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話
1. あらためて憲法26条を読んでみると……
では、憲法26条はどのような規定でしょうか。まず、第1項で、教育を受ける権利を規定しています。対象はすべての国民ですが、その中心は子どもの学習権の保障にあります。
しかしもし、子どもが学習権を行使できていない状態にある場合、「教育を受ける権利を保障しろ」と自ら憲法訴訟を起こすことは困難でしょう。そこで、国民に「その保護する子女に普通教育を受けさせる義務」を負わせることで、子どもの学習権を担保する、という構造になっています。つまり、この義務は、子どもに対して親が負うものということになります。
義務を負わされた親の中には、資力が乏しい人もいるでしょう。そこで、義務教育は無償とすることによって、子どもの学習権を確保するようにした、というわけです。
子どもの学習権の保障ということと論理的に関係があるので、その文脈で親の義務を規定したと理解すべきでしょう。
2. 高校・大学の無償化について
世界人権宣言は、国連での「決議」でしたが、これを基礎として国際人権規約が条約化されました。1966年の第21回国連総会において採択された経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(社会権規約、A規約)と市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約、B規約)です(1976年発効)。
自由権規約は、国家が国民に干渉しなければよい内容のものですから、多くの国で、そのまま批准している場合が多いのに対して、社会権規約は、財政上の理由から、国によっては達成が難しいなどの理由で、すべてについては丸ごと了解できないとして、個々の条項には「留保」をつけたうえで(その条項については棚に上げて)批准することがあります。
日本は両方の規約について1979年に批准しましたが、社会権規約についてはいくつかの留保をつけました。そのうちの一つが中等教育・高等教育の無償化です。
2012年、日本政府は高校・大学の無償化の留保の撤回を国連に通告しました。外務省のホームページには次のように掲載されています。
「日本国政府は,昭和41年12月16日にニューヨークで作成された『経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約』(社会権規約)の批准書を寄託した際に,同規約第13条2(b)及び(c)の規定の適用に当たり,これらの規定にいう『特に,無償教育の漸進的な導入により』に拘束されない権利を留保していたところ,同留保を撤回する旨を平成24年9月11日に国際連合事務総長に通告しました。
外務省 - 経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約(社会権規約)第13条2(b)及び(c)の規定に係る留保の撤回(国連への通告)について
この通告により,日本国は,平成24年9月11日から,これらの規定の適用に当たり,これらの規定にいう『特に,無償教育の漸進的な導入により』に拘束されることとなります。
ここにいう中等教育は、日本における高校・高専など、高等教育は大学などにおける教育を指しています。
ところで、憲法98条2項は、「日本国が締結した条約及び確立された国際法規」について、誠実に遵守する法的義務を負うこととしています。したがって、大学の無償化に漸進的に取り組まなければならないことは、すでに実質的意味の憲法の内容となっています。
にもかかわらず、いわゆる自民党の改憲4項目の1つに、大学の無償化が掲げられています。すでに憲法の内容となっていることについて、ご存じなくて政権運営をされているのではないかと疑われます。