気づけば人生の伏線回収。本業じゃないほうの動画がバズった話。
※2024年3月27日に配信されたトークライブ「くらしとしごと」をもとに構成されたコンテンツです。
トークライブ「くらしとしごと」とは
世界にはひとの数だけ、「くらし」(ライフ)と「しごと」(ワーク) の形がある。そのひとつひとつにスポットライトを当て、生き方のヒントを探るシリーズ企画です。
兵庫県のまんなか、神河町に拠点を置くOFFICE KAJIYANOが企画。2018年にスタートし、コロナ期を経て2023年からは不定期でインスタライブにて発信中! @office_kajiyano
Staff
動画撮影 @hiro78_2
フード @meguri.handmade
#23 ゲスト:山内忠宜さん(YouTuber/農家)
兵庫県神河町で米や豆類の生産を手がける農業法人「株式会社ヤマウチ」の代表。2020年のコロナ禍に本格化させたYouTubeチャンネルがブレイクし、今では登録者5万人超(2024年11月現在)
プロローグ
村上龍が著書『13歳のハローワーク』の中で、政治家という職業について「目指そうと思って目指すものじゃない」的なことを書いていた記憶がある。
現代のYouTuberも、もしかしたらそうかもしれない。
というのも、なりたいかどうかももちろんあるけど、「YouTuberになれるような人生を送ってきたか」が問われる世界なんじゃないかと思うからだ。
着眼点や切り口、話し方、表情、そしてセルフブランディングやビジネス視点。複合的な要素が絡み合って、「YouTuber」という職業は成立する。
もちろん「YouTubeで稼ぐ」ということから逆算して、徹底的にマーケティングしてビジネスとして割り切った運営をする人もいる。だけど忘れてはならないのが「コンテンツを作るのは人」だということ。(前職の退職時に、お世話になった大先輩から授かったことばでもある)
どんなに馬鹿げた企画でも、それを形にして魅力的に伝えていくためには、発信者の「引き出し」が求められる。それは年齢や属性ではなく、「生き方の面白さや密度」によって生まれるものだと思う。
もうひとつの顔は、YouTuber。
山内さんとは、同社のライスセンターで収穫米の籾摺り乾燥をお願いしている関係で知り合った。
出会うといつも雑談が広がってしまうのだけど(手を止めてる?)、「うち、YouTubeもやってるんよ」と聞いたことはあった。
その場で検索せず(反省)頭のどこかに消えてしまっていたのだけど、のちに知人から「あそこのYouTubeはすごい」と聞いて開いてみたら、「えぇ!?」と思わず声が出た。想像とは次元の違う本格的なチャンネルで、近隣のYouTubeチャンネルでは見たことのない再生数!
何より意外だったのは、多く再生されているコンテンツが、本業の米作りや大豆づくりでなくバックホー(通称ユンボ)を自在に操る「ユンボ動画」だったこと。
これが、ついつい観てしまうのです・・。
遊び感覚でチャンネル開設
チャンネル自体の開設は2012年頃。
仕事で使っていたカメラが壊れてアクションカメラを手に入れた際、動画を撮ってみたら案外きれいに撮れた。それなら、ついでに編集してみよう、と軽い気持ちでスタートしたものの、動画の編集方法なんて分からない。
パソコン好きの息子にも教えてもらいながら、少しずつソフトの使い方を習得。最初にどんな動画をアップロードしたかも今となっては覚えていないそうです。
動画がバズる。
そして2020年、コロナ禍。
時間ができたこともあり、チャンネル運営を再開した山内さん。
本格的に取り組み始めてアップロードしたのが、「田んぼに水を引きこむために、水路をふさぐ石をユンボで動かす」動画。
最初の2週間くらい、再生回数は低空飛行。
数回〜10回。
15回。
ところがある日突然、YouTubeからの「コメントが届きました」等の通知ラッシュ!
再生回数の桁が変わり、いきなり5,000回、10,000回・・・と増加。
200人ほどだったチャンネル登録者数は、瞬く間に1,000人越え。
嵐のようなできごとだったといいます。
なぜユンボ動画がバズったのか
①リラクゼーション効果
技術的な関心からアクセスを集めているのかと思いきや、そうとも限らず。
コメント欄には
「水路に詰まった土砂がきれいになってスッキリした」
「砂利をすくってサラサラと落ちる音が、環境音的に気持ちいい」
といった視点のフィードバックも。
「『夜寝る時の睡眠導入にいい』『これ聴きながら寝てます』『赤ちゃんに聴かせたら泣き止みました』とかもあるんよ」
もはや、子育てママを救うリラクゼーション映像。視聴者が(勝手に)コンテンツの新たな価値を見出していく、というのもYouTubeらしい現象だと思う。
②アジアはじめ海外のユンボユーザーからの習得ニーズ
コメント欄には、日本語だけでなく、英語 マレー語 インドネシア語なども飛び交う。
「半分くらいは海外の人。ベトナム、インド インドネシア アジア寄り あと南米」
「もしかしたら、日本製のバックホーを手に入れて、使い方を知りたがっている人が参考にしているのかも」
海外の視聴者が離脱しないようサムネには文字入れをせず画像だけにする、概要欄には30言語(!)の説明文を載せるなどグローバルな受容を意識しているそう。
「最初は農業用のチャンネルとして立ち上げたのに、農業の動画あげると登録者減るんよ」
自嘲気味に笑うものの、視聴者のニーズと向き合う醍醐味や双方向のコミュニケーションを楽しんでいるように僕には感じられた。
<参考>収益化のプロセス
ちなみに、YouTubeを始めたら誰でも広告料がもらえるわけではない。
「チャンネル登録1,000人」
「総再生時間 4,000時間」
ガイドラインで定められた基準をクリアしてはじめて「収益化」=(YouTubeで収益を得るという意味での)YouTuberの仲間入りとなるのだ。
山内さんのチャンネルは、Google社のおすすめアルゴリズムにもピックアップされて再生やチャンネル登録の連鎖が起こり、本格スタート当月(!)にその基準に達したのだ。
※なお、収益化には申請が必要。コロナ感染拡大期はGoogleの人員が減っており、アメリカとの事務手続きに時間が掛かったそう。
ちなみに、、、気になる再生数あたりの単価は?
「金額のことは言えない。BANされる。くわしいことは言ったらあかん」
「国にもよる。オーストラリアだと、1円超えてる。日本だと0.何円 とか ぐらいにしときましょうか」
※BAN=アカウント停止
奥深きユンボの世界
この書き方だと、そろそろ疑問の声が届きそうだ。
「なんで、農家さんがユンボ得意なの?」
それには同社の歴史が関係している。
株式会社ヤマウチ(通称ヤマウチファーム)の前身は、建設会社。土建の仕事から徐々に農業へシフトしていった経緯がある。
大学卒業後に家業に入った忠宜さんは、建設の現場でお父さんの指導のもとユンボのスキルを習得。その知識と技術が農場管理に生かされているというわけです。
農業機械とユンボ
23-24歳から乗っているので、ユンボ歴は25年、つまり四半世紀以上!
田植え機やコンバインの扱いも一流に見えますが、、、強いていうなら農業機械とユンボ、どっちが得意?
「農業系の機械が30やとしたら、ユンボは90とかかな」
「・・・本業の農業が30 !?」
そっちに思わずツッコんでしまったが、続きを聴いて納得した。
「よくいうけど、農業は毎年が1年生。これっていう決まったやり方でうまくいくとは限らない」
「気候 雨のぐあい 肥料の調整・・・いろんな外部要因にも左右されるし、このまま 60-70歳までやっても、30かなって思う」
「でも自分でいうのもあれやけど、ユンボは自信あるから」
ひとつでも動画を観た人は納得でしょう。
考えるな、感じろ。
実はバックホーの基本操作はメーカーにより異なり、主に4パターン。
山内さんは、いわゆる「縦旋回」。(前後に引くことによって横旋回)
15年前くらいからは「右に回したら右に行く」GIS規格が主流になりつつあるそうで、行く現場によっては、使い慣れたものと違って戸惑うこともあるそう。
「最初は、頭で考える。でも、だんだん、考えずにさわれるようになる」「自分は縦旋回で慣れてるから、横は使いづらいんよ」
ブルース・リーの名言が頭をよぎりつつ、もはや体の一部と化しているさまは、人間とエヴァンゲリオンのシンクロをも彷彿とさせる世界。
・・・いつかNHKの『プロフェッショナル』に出たりして。
人生の伏線回収
山内さんはもともと機械好き。
小学生時代には、当時まだ珍しかったお父さんの仕事用パソコンに興味を持って没頭。
高校時代は宅録(DTM)に夢中になり、友達といっしょにJ-POPのオケを完コピするなどしていたそう。(音源は聴いてないけど、あの言い方だと相当なクオリティのはず)
その後、大学を卒業して就活したものの当時は氷河期。とりあえずと父の会社を手伝うように。その仕事で重機を使う経験を重ね、そのスキルが農業にも生き、果てはYouTubeのネタにもなった。
つまり、パソコンはじめ機械マニアのオタク気質であり(やや失礼)、消去法的選択だった家業の継承と現場での経験が、結果的にYouTubeでの成功につながったのだ。
冒頭の話に戻ると、こんなストーリーを最初からデザインできただろうか?
その時には寄り道だと思ったことや、不本意な選択・経験が種まきとなり、のちに思わぬ形で結びつき、花を咲かせる。
「人生は再現性がない」という真理のモデルケースでもあると思います。
澄んだ水が育む神河のお米を届ける。
山内さんの本業は、あくまで農業。
YouTubeチャンネルの主役こそユンボに譲ったものの、ときおりはお米の紹介もして、ネットショップの案内も行っている。
「農業って、究極は水だと思ってるんですよ」
山内さんの力強いことば。
「同じコシヒカリでも、 違う地域で作ってるものを食べ比べてみたら、同じ品種なのに味が全然味違うんで」
「平野部や日当たりのいいところで作ってたら100キロ取れました。でも、この辺では60キロしか取れません。そういうのはあんねやけども、同じ1本から少なく実がついてる方が、栄養がぎゅっと集中してるんで」
「それに、この神河町は涼しい、寒いんですね。水が冷たい。寒暖差がお米をおいしくするんですよ」
「うちにお米の自動販売機を置いてるんやけど、そこで買ってくれた人がわざわざ電話くれて、おいしい!と。今までスーパーで買ってたお米はなんやったんやって」
「もちろん土作りとかあるんですけど、なんやかんや言うても、結局最終的に何がいちばんおいしい要素に結びついてるかって言ったら、水」
・・・神河、小田原の水の話を始めたら止まらない。やっぱりこの人は農家なのだ。
「だからもっとブランド化してね。もっと皆さんに知ってほしいなっていう思いがすごいあるんでね。よければ一度お買い求めいただいて、食べてみてください」
山内さんの話が本当かどうかは、食べてみてのお楽しみ。
詳細はページ下部のリンクから🌾
エピローグ
「社会に出てからのほうが勉強すること多いし、期間も長い」
後日、盛り上がったテーマのひとつだ。改めて、本当にそうだと思う。
オンデーズの田中社長が、何かのネット番組で問題提起をしていた。
「こどもに予習復習ちゃんとやったか?って聞きますよね。でもその自分が、仕事の予習復習してますか?ビール飲んでテレビで野球観てないですか?」
僕の場合はテニスなんだけど、ちょっとそうなりかけていたので、グサっときた。
そうなのだ。ある程度自分の仕事の形ができてくると、ややもすると、日々をこなし、新たに勉強することをしなくなる。おそらく人間はそういう風にできている。
では、ある面でのヒトの「性(さが)」から脱して、能動的、主体的に学ぶ大人でいるためにはどうしたらいいか。
ひとつの答えは「楽しいこと、ワクワクすること」に身を投じることだと思う。
良い歳して、まるでこどもたちと同じ土俵じゃないかとも思うけど、勝手にその土俵から降りていくのは大人たち自身なのかもしれない。
「学び続ける大人」のロールモデルといえる山内さんとの出会いに感謝したい。
Information
山内 忠宜(やまうち ただき)
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