女性スペースを守る会高裁判決+黒猫ドラネコ対エリ判決+岡村晴美対KDDi+GFA対板垣雄吾

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24日 女性スペースを守る会対アリエルクッキーリュウ高裁判決

https://note.com/sws_jp/n/n00daaccaf559

25日 黒猫ドラネコ対エリ
 判決文(事案の概要を除く)、投稿記事、訴状中「権利侵害の説明」
26日 岡村晴美対KDDi
 判決(事案の概要を除く)、投稿記事
27日 GFA㈱対板垣雄吾
 訴状
 
令和6年ネ3901 原審 横浜地裁令和5年117
原告・控訴人 女性スペースを守る会 代理人 滝本太郎
被告・被控訴人 アリエルクッキーリュウ 代理人 神原 元、宋恵燕、穂穂積匡史
1 原判決を次のとおり変更する。
(1) 被控訴人は、控訴大に対し、別紙投稿記事目録記載の投稿’を削 除せよ。
(2) 被控訴人は、控訴人に対し、10万円及びこれに対する令和5 年1月17日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員 を支払え。
(3) 控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、第1審、第2審を通じてこれを10分し、その3を 被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。
3 この判決は、第1項(2)に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第]控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2 主文第]項⑴と同旨
3 被控訴人は、控訴人に対し、原判決別紙謝罪文目録記載「掲載要領」に従っ た同目録記載「掲載内容」のとおりの謝罪文を送付せよ。
4 被控訴人は、控訴人に対し、原判決別紙謝罪文目録記載「掲載要領」に従っ た同目録記載「掲載内容」のとおりの謝罪文を同目録記載「掲載条件」に従っ て掲示せよ。
5 被控訴人は、控訴人に対し、5 4万5 0 0 0円及びこれに対する令和5年] 月]7日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員並びに同日から別 紙投稿記事目録記載の投稿の削除済みまで]日5 0 0 0円の割合による金員を 支払え。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 本件は、権利能力なき社団である控訴人が、ツイッター(インターネットを 利用してツイート(現在の名称はポスト)と呼ばれる短文のメッセージ等を投 稿することができる情報ネットワーク。現在の名称はX。以下「ツイッター」 という。)のウェブサイトに投稿された別紙投稿記事目録記載のツイート(以 下「本件投稿」という。)により名誉を,毀損されたと主張して、本件投稿をし た被控訴人に対し、(1)民法7 2 3条に基づき、「名誉を回復するのに適当な 処分」として、①本件投稿の削除、②原判決別紙謝罪文目録記載の謝罪文(以 下「本件謝罪文」という。)の控訴人への送付及び③ツイッターの被控訴人の アカウント上での本件謝罪文の掲示を求め、さらに、(2)同法7 0 9条及び7 10条に基づき、名誉を毀損されたことによる損害賠償として、①令和4年9 月30日(本件投稿がされた後の日)から令和5年1月16日(本件に関して 控訴人が被控訴人に反訴を提起した日の翌日)までの間における1日5 0 0 0 円の割合による慰謝料合計5 4万5 0 0 0円の支払、②これに対する同月17 日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払 及び③同日から本件投稿の削除済みまで1日5 0 0 0円の割合による慰謝料の 支払をそれぞれ求める事案(以下「本件訴訟」という。)である。
 原審は、控訴人の請求をいずれも棄却したことから、これを不服として、控 訴人が控訴した。
2  前提事実(当事者間に争いがない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨に より容易に認められる事実)
(1) 当事者
 ア控訴人
 控訴人は、「女性スペースを守る会ーLGBT法案における『性自認』 に対し慎重な議論を求める会一」と称する令和3年9月18日に設立され た権利能力なき社団である(乙19の1ないし3)。
ィ 被控訴人
(ア) 被控訴人は、LGBTの研究を専門とする研究者である。
 被控訴人は、! 9 8 5年(昭和6 0年)に台湾で生まれ、平成2 5年 に来日した。被控訴人は、現在、相模女子大学の非常勤講師等を務めて いる。(甲1.70)
(イ)  被控訴人は、「アリエルクッキーリュウ」(@arielcookieliu)のア カウント名でツイッターを利用している。
 被控訴人のアカウント(以下「本件アカウント」という。)には、令和4年12月の時点で、約2 7 0 0人のフォロワー(特定のアカウント の更新状況を手軽に把握できるツイッターの機能を利用して、その投稿 •内容を随時閲覧することができるように登録した者をいう。以下同じ。) がいた。(乙2の4)
(2) 控訴人による投稿等
ア本件訴訟で控訴人の代理人を務める弁護士滝本太郎(以下「本件控訴人 代理人」という。)は、令和4年9月2 2日付けで、東京大学教授の安冨 歩(以下「訴外安冨」という。)•を被告として、名誉毀損による損害賠償 等を求める訴え(以下「別件訴訟」という。)を提起した(乙5の1ない し5の3) 。
イ  控訴人は、令和4年9月2 3日、ツイッターの控訴人のアカウント上で、 「安冨歩氏を被告に名誉毀損訴訟 「闇の勢力」でも統一教会絡みでもな
い「守る会」と滝本弁護士 当会と滝本氏の名誉を守るため、防波堤役弁 護士・滝本氏が原告となって、9月2 2日、名誉毀損訴訟を提起しました。 詳細は以下note記事をご覧ください。」という内容のツイート(以下
「控訴人投稿」という。)をし、控訴人のウェブサイト(以下「控訴人サ イト」という。)上でも、別件訴訟を提起した旨の記事を投稿した(甲4、 5 4) 。
(3) 被控訴人による本件投稿
ア 被控訴人は、令和4年9月2 5日、本件アカウント上で、本件投稿をし た(甲5)。
イ 本件投稿には、控訴人投稿を引用の上、『悪質トランス差別団体「女性 スペースを守る会」は今度安冨歩先生に提訴した。安冨先生を支持します。 #LGBT 』と記載されていた。
ウ 本件投稿は、現在も、本件アカウント上に掲載されており、不特定多数 の者が閲覧することができる状態に置かれている。
(4) 本件訴えの提起等 ア 被控訴人は、令和4年11月14日、控訴人を被告として、本件投稿を 削除する義務を負わないこと等の確認を求める訴え(以下「本件本訴」と いう。)を提起した。
イ’控訴人は、令和5年1月15日、被控訴人を反訴被告として、本件投稿 の削除等を求める反訴を提起した(本件訴訟)。
ウ 被控訴人は、令和5年3月15日、控訴人が本件訴訟を提起したことに より訴えの利益を失ったとして、本件本訴を取り下げた。
工 東京地方裁判所は、令和5年3月3 0日、訴外安冨がインターネット上 の動画投稿サイトの番組の中でした意見は、LGBTの問題に関して、本 件控訴人代理人が統一教会の影響を受けて自分の考えを変え、統一教会に 同調しており、その言動に一貫性がないかのような印象を視聴者に与える ものであって本件控訴人代理人の社会的評価を低下させるものである上、 違法性阻却事由又は責任阻却事由も認められないなどとして、訴外安冨に 慰謝料3 0万円の支払を命じる判決を言渡し、その後、同判決は確定した (乙6 5、弁論の全趣旨)。
3 争点及びこれに対する当事者の主張
(1) 本件投稿は、特定の事実を摘示し、又は意見ないし論評を表明することに より、控訴人の社会的評価を低下させたか(争点1)。
(控訴人の主張)
被控訴人は、本件投稿の中で、『悪質トランス差別団体「女性スペースを 守る会」』と記載し、明確に控訴人の名誉を毀損する形で極めて単純かつ悪 質なレッテル付けをした。
 本件投稿には、控訴人の言論活動やその評価に関する記載はなく、控訴人 の名称に修飾語として「悪質トランス差別団体」と記載するものであり、明 らかな人格攻撃である。
 差別団体であるかどうかは、証拠などで証明することができる場合もあり、 少なくともその場合は特定の事実の摘示に当たる。そして、「差別」とは、 特定の集団に所属する個人や性別などの特定の属性を有する個人•集団に対 してその所属や属性’を理由に異なる扱いをする行為であるから、「差別団体」 とは、そのような行為をする団体であるということになり、多くは証拠など で十分に証明することができる。したがって、本件投稿は意見ないし論評に は当たらない。
 以上によれば、本件投稿が、特定の事実を摘示して控訴人の社会的評価を 低下させたことは明らかである。
(被控訴人の主張)
否認する。
控訴人がトランスジェンダーを差別している悪質な団体であるかどうかは 証拠等による証明になじまない。,したがって、本件投稿は意見ないし論評の 表明に当たり、その内容に照らすと、控訴人の社会的評価を低下させるもの ではない。
また、仮に本件投稿が控訴人の社会的評価を低下させるものであったとし ても、下記(2)で主張するとおり公正な論評の法理により違法性が阻却され る。 、
(2) 本件投稿に違法性阻却事由が認められるか(争点2)。
'(被控訴人の主張)
ア 本件投稿が前提とする事実は、①控訴人が、トランスジェンダー女性に 女性トイレの利用を認めるべきではないという活動をしていること、②L GBT保護法案(性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関 する国民の理解の増進に関する法律(令和5年法律第6 8号)として後に 成立したもの。以下同じ。)における「性自認」に対して慎重な議論を求 める政策を掲げて活動していることであるが、これらはいずれも真実であ る。
イ 本件投稿が前提とする控訴人の活動は上記アのとおりであるところ、こ れらは専ら不特定多数人の利害に関するものであるから公共の利害に係る ものに当たる。
ウ 本件投稿の目的は、控訴人によるトランスジェンダーへの差別に反対し、 トランスジェンダーの基本的人権を守ることにある。したがって、本件投
稿の目的は専ら公益を図るものである。また、本件投稿の内容は、その内 容に照らすと、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱して
.はいない。
エ 本件訴訟で問われるべきは、控訴人が「悪質トランス差別団体」である かどうかではなく、あくまで控訴人の掲げる政策その他を「悪質トランス 差別団体」であると論評することが民法上違法と評価されるかである。
上記アないしウで主張したところによれば、本件投稿は、公正な論評の 法理により違法性が阻却されるから、仮に、本件投稿が控訴人の社会的評 価を低下させたとしても、被控訴人は、控訴人に対I、不法行為に基づく 損害賠償責任を負わない。
(控訴人の主張)
否認ないし争う。
仮に、本件投稿が意見ないし論評の表明に当たるとしても、上記⑴で主張 したとおり、本件投稿は、控訴人に対する極めて単純かつ悪質なレッテル付 けであるから公共の利害に係るものとはいえない。
また、差別団体に当たるかどうかは公共の利害に係るものであるとしても、 被控訴人は、控訴人に対する悪意をぶつけるために本件投稿をし、控訴人に レッテル付けをしたものであるから、本件投稿は、専ら公益を図る目的でさ れたものではない。
さらに、控訴人の活動はトランスジェンダーに対する差別には当たらない から、本件投稿は、控訴人に対する人身攻撃や人格の否定に当たるもので、
意見ないし論評としての域を逸脱している。
(3) 損害の発生及びその額(争点3)
(控訴人の主張)
本件投稿は、書籍や新聞などの印刷物とは異なり、インターネット上に継 続して存在し、人の目に触れ、かつ、日々転載(リツイート)されるもので あるから、本件投稿による控訴人の損害額の算定に当たっては、本件投稿が インターネット上に掲載された日数を考慮すべきであり、1日当たり500 〇円の損害が発生すると認めるのが相当である。
これを前提に控訴人の損害額を計算すると、控訴人が被控訴人に対して本 件投稿の削除の期限とした日の翌日である令和4年9月•3 0日から令和5年 1月16日までの10 9日間の損害額は5 4万5 0 0 0円となる。また、被 控訴人は、控訴人に対し、上記5 4万5 0 0 0円に対する同月17日から支 払済みまで年3パーセントの割合による金員及び同日から本件投稿の削除済 みまで1日当たり5 0 0 0円の割合による金員も損害賠償として支払うべき である。
(被控訴人の主張)
否認ないし争う。
(4) 名誉回復措置の要否(争点4)
(控訴人の主張)
被控訴人は性的少数者につき研究している知識人であるから、このような 被控訴人がした本件投稿は影響力が強い。
また、被控訴人はその代理人(以下「本件被控訴人代理人」という。)と 共に本件本訴の提起に当たって記者会見をし、その様子が相応に報道された ことによれば、本件投稿を削除した上で、控訴人に対する謝罪の意思も明ら かにされなければ、控訴人が被った被害の回復としては足りない。
そして、本件被控訴人代理人のツイートにより控訴人の裁判を受ける権利 が侵害され、控訴人及びそのメンバーが恐怖感を抱いていることによれば、 本件謝罪文の控訴人への送付を要する。さらに、被控訴人は、ツイッターの ブロック機能を利用して、控訴人及び本件控訴人代理人(以下「控訴人ら」 という。)が本件アカウント上で意見を述べることを封じているから、被控 訴人が自ら本件アカウント上に本件謝罪文を掲示しなければ、本件訴訟で控 訴人が勝訴しても、本件アカウントのフォロワーを始めとする本件投稿の読 者には伝わらない。また、本件アカウント上に本件謝罪文を掲示することは 無償であるから、被控訴人にとって容易である。
以上によれば、本件投稿により毀損された控訴人の名誉を回復するため、 本件投稿の削除、本件謝罪文の控訴人への送付及び本件アカウント上での本 件謝罪文の掲示が必要である。
(被控訴人の主張)
否認ないし争う。
第3当裁判所の判断
当裁判所は、控訴人の請求は、被控訴人に対して、本件投稿の削除並びに慰 謝料10万円及びこれに対する令和5年1月17日から支払済みまで民法所定 の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があると 判断する。その理由は、次のとおりである。
1認定事実
前記前提事実、後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の各事実が認め られる。
(1) 控訴人の活動内容等
ア 控訴人は、女性自認者(出生時に割り当てられた性別とは異なる性自認 を持つトランスジェンダー女性であるが性別適合手術を受けていない身体 的には男性である者のこと。以下同じ。)と「女性らしい」装いの男性や よからぬ目的で入ってくる男性とは、外見からは区別することができない ことから、女性自認者や「女性らしい」装いの男性が女性トイレを利用す ることができるようになると、実質的には女性の装いをする男性の全てが 女性トイレに自由に入るおそれがあると考え、LGBT保護法案が審議さ れる上で、女性自認者や「女性らしい」装いの男性が女性トイレを使用す ることを公に認めるべきではないことを明確にし、「性自認」について広 <国民の議論を喚起しつつ、十分な国会審議がされることを求めるために 発足した団体である(甲33、’34)。
イ 控訴人は、令和3年10月2 0日、衆議院議員選挙の立候補者に対し、 女性自認者が公衆の女性トイレに入ることについてどう思うかなどの質問 が含まれる公開質問状を送付し、そのことを控訴人サイト上で公開した
(甲 5 7) 〇
ウ 控訴人は、令和4年1月から2月にかけて、鉄道会社、国立大学、トイ レメーカー、メディア及び民間店舗に対し、女性トイレに「女性専用」の 明示をすることを求めたり、性自認概念の導入に反対する控訴人に対する 取材を求めたり、アンケートを実施したりし、このことを控訴人サイト上 で公開した(甲58ないし62、乙16の2)。
エ 控訴人は、令和4年4月5日、平成16年以降の女装者による事件で報 道されたものをリスト化し、控訴人サイト上で発表した(乙2 7の1及び 2 702) 0
オ 控訴人は、令和4年5月16日、地方公共団体の議会に対し、改正労働 安全衛生規則が施行されたことにより女性トイレが職場や公衆便所等で減 少する可能性があるため、トイレを男女別とする同規則の定めを維持する 意見書を出すように求める陳情書を提出し、そのことを控訴人サイト上で 公開した(乙2 5)。
カ 控訴人は、令和4年5月17日、衆議院議員会館内で、性別不合当事者 の会、白百合の会及び平等社会実現の会と合同で自由民主党及びメディア
向けの院内集会を開催し、そのことを控訴人サイト上で公開した(乙2
8) 〇
キ 控訴人は、令和4年6月9日付けで、内閣総理大臣に対し、同月に開催 される予定であったLGBT国際会議に参加しないように求める要請書を 提出し、そのことを控訴人サイト上で報告した(乙31),〇
(2) 被控訴人による本件投稿等
ア 被控訴人は、令和4年9月2 5日当時、アリエルクッキーリュウ【台湾 を知るための7 2章・発売中/おばあちやんのガールフレンド•クラファ ン中】@arielcookieliuのアカウント名でツイッターを利用していたとこ ろ、同日、控訴人投稿を引用する形で本件投稿をした。
イ 控訴人と被控訴人との間では、被控訴人により本件投稿がされるまで、 本件アカウント上で、控訴人の活動に関する意見ないし論評の応酬がされ たことはなかった(弁論の全趣旨)。
(3) 本件投稿後の経緯等
ア 控訴人は、令和4年9月2 5日、被控訴人に対し、本件アカウント上で、 •「女性を守る言動を、差別扇動・ヘイト団体・差別主義者と呼ぶことは名
誉毀損になります。ご注意を。」と警告した(乙2の2) 0
イ 本件控訴人代理人は、令和4年9月2 9日、被控訴人に対し、『★何が どう「悪質トランス差別団体」なのか。違法な名誉毀損に該当しましょう。 9/2 9限り削除されたし。以上』と通知した(乙2の3) 〇
ウ 控訴人は、令和4年9月3 0日付けで、被控訴人に対し、「ツイート削 除、謝罪広告、損害賠償の請求書」と題する文書を送付して本件投稿の削 除や慰謝料の支払等を求めたが、被控訴人が本件投稿を削除することはな かった(甲6、乙1の1、1の2)。
エ 被控訴人は、令和4年10月初旬頃、ツイッターのブロック機能を使用 して、控訴人らが、本件アカウントを閲覧したり、本件アカウント上でツ
イートしたりすることができないようにした(乙43、弁論の全趣旨)。
オ 被控訴人は、令和4年10月2 8日、本件アカウント上で、①本件控訴 人代理人が本件投稿を削除しないと1日当たり5 0 0 0円を支払うよう求 める内容の怪文書を被控訴人の勤務先に送付してきたこと、②都議会議員 が指摘するとおり、控訴人は差別の意図を隠し、都議会に陳情の名義で卜 ランス差別を行う団体であり、組織的にトランス差別を行い、行政を変え でトランス女性をいじめるのは恐ろしい悪質な差別行為であり、控訴人ら と戦う訴外安冨を応援するのは当たり前であることなどをツイートし、同 ツイートの読者に対して第三者にも拡散するよう求めた(乙3の1ないし 乙3の4)。
2 争点1(本件投稿は、特定の事実を摘示し、又は意見ないし論評を表明する ことにより、控訴人の社会的評価を低下させたか。)について
(1) 名誉毀損の不法行為は、問題とされる表現が、人の品性、徳行、名声、信 用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価を低下させるものであ れば、これが事実を摘示するものであるか、又は意見ないし論評を表明する ものであるかを問わず、成立し得るものであり、当該表現の意味内容が他人 の社会的評価を低下させるものであるかどうかは、当該表現についての一般 の読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきである。
また、ある表現が、事実を摘示するものか、意見ないし論評の表明である かの区別については、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準に、前後の 文脈や、当該表現の公表当時に一般の読者が有していた知識又は経験等を考 慮すると、当該表現が証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に 関する特定の事項を明示又は黙示的に主張するものと解される場合には、当 該表現は、上記特定の事項についての事実を摘示するものと解するのが相当 であり、上記のような証拠等による証明になじまない物事の価値、善悪、優 劣についての批評や論議などは、意見ないし論評の表明に当たると解するの が相当である(最高裁昭和2 9年(才)第6 3 4号同31年7月2 0日第二 小法廷判決•民集1Q巻8号1Q59頁、最高裁平成6年(才)第9 7 8号 同9年9月9日第三小法廷判決•民集51巻8号3 8 0 4頁、最高裁平成1 5年(受)第1 7 9 3号、第17 9 4号同16年7月15日第一小法廷判 決・民集58巻5号1615頁参照)。
(2) 本件投稿は、『悪質トランス差別団体「女性スペースを守る会」は今度安 冨歩先生に提訴した。安冨先生を支持します。#LGBT』というものであ るところ(前提事実(3)イ)、本件投稿についての一般の読者の普通の注意 と読み方とを基準とすると、本件投稿は、控訴人がトランスジェンダーを差 別している悪質な団体であると批評するものであり、その批評自体は、証明 の対象とはなり得ず、証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に 関する特定の事項を明示的又は黙示的に主張するものとは解されない。した がって、本件投稿は、被控訴人の意見ないし論評の表明に当たると解される。
(3) そこで次に、本件投稿の意味内容が、一般の読者の普通の注意と読み方と を基準として、権利能力なき社団である控訴人の社会的評価を低下させるも のかについて検討する。
控訴人は、女性自認者と「女性らしい」装いの男性やよからぬ目的で入っ てくる男性とは外見では区別することができないことから、女性自認者や 「女性らしい」装いの男性が女性トイレを使用することを公に認めるべきで はないことなどを明確にし、「性自認」について広く国民の議論を喚起しつ つ、十分な国会審議がされることを求めることを目的として発足した団体で あり(認定事実(1)ア)、衆議院議員選挙の立候補者に対し、「性自認」が 女性であり身体が男性である人が公衆の女性トイレに入ることについてどう 思うかなどの質問が含まれる公開質問状を送付したり、民間企業等に対し、 女性トイレに「女性専用」と明示することを求めたり、平成16年以降の女 装者による事件で報道されたものをリスト化したりしてこれらを控訴人サイ
卜上で公表するなど(認定事実(1)イないしキ)、上記目的のために広ぐ活 動していることが認められる。
そして、本件投稿の内容や、本件訴訟における被控訴人の主張内容に照ら すと、本件投稿は、控訴人の活動がトランスジェンダーに対する差別に当た ると考えた被控訴人が、控訴人の活動に反対する立場から控訴人を批評した ものであると解することができる。
個人がその真に自認する性別に即した社会生活を送ることは重要な利益で あり、とりわけ、トランスジェンダーである者にとっては切実な利益である ことは明らかである。したがって、この性自認の問題は、多様性を尊重する 共生社会の実現に向けて、社会全体で幅広く議論され、共通の理解を形成す べきものである。このような観点からは、控訴人の活動は、その賛否も含め、 様々な立場から多角的に議論されるべきものである。したがって、被控訴人 が控訴><の上記活動に対してトランスジェンダーに対する差別に当たると考 え、トランスジェンダーの基本的人権を守るという観点から、反対の意見な いし論評を表明すること自体は正当であり、そのような意見ないし論評を表 明する自由は十分に保障されるべきものである。
 もっとも、意見ないし論評を表明する自由は、絶対無制限に保障されるも のではなく、社会通念上許される範囲内で行うべきものであり、そのために は、自らの意見とは異なる意見を有する者の存在も肯定した上で、その立場 や考えも十分に理解し、説得力のある言論により自らの意見ないし論評を表 明すべきものであるところ、上記のとおり、社会全体で議論され共通の理解 を形成していくべき性自認の問題については、異なる見解を持つ相手の立場 や考えも十分に尊重し、冷静かつ節度を持った議論をすべきである。
しかるに、被控訴人は、控訴人と被控訴人との間で、本件アカウント上で 控訴人の活動に関する意見ないし論評のやり取り等がされていない状況下で、 本件投稿において、控訴人の活動に反対する具体的な理由を一切明らかにす ることなく、 「悪質」や「差別団体」という、相手方の社会的評価に対して 極めて否定的かつ断定的な価値判断を示す表現を用いて控訴人を批評してい るのであるから、これにより、本件投稿の一般の読者にとっては、控訴人の 悪性が強く印象付けられることになるというべきである。
(4) 以上によれば、本件投稿は、意見ないし論評として、控訴人の社会的評価 を低下させるものと認めるのが相当である。
3 争点2 (本件投稿に違法性阻却事由が認められるか。)について
(1) 被控訴人は、仮に本件投稿における「悪質トランス差別団体」との論評が 控訴人の社会的評価を低下させるとしても、いわゆる公正な論評の法理によって違法性が阻却される旨主張し、その理由として、①被控訴人は、不特定多数が利用する女性トイレの利用をトランスジェンダー女性に認めるべきで はないという政策等を掲げる控訴人の活動を「トランス差別」と捉え、同差 別に反対し、トランスジェンダー女性の基本的人権を擁護する目的から「悪 質トランス差別団体」との論評を表明したものであり、本件投稿による論評の対象は公共の利害に関する事実に係り、また、専ら公益を図る目的でされたものであること、②控訴人が上記論評の前提となる活動をしていることは 真実であること、③「悪質トランス差別団体」という論評は人身攻撃に及ぶ など意見ないし論評としての域を逸脱するものではないことを指摘する。
(2) 事実を基礎としての意見ないし論評の表明による名誉毀損にあっては、そ の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図る ことにあった場合に、上記意見ないし論評の前提としている事実が重要な部 分について真実であることの証明があった.ときには、人身攻撃に及ぶなど意 見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り、上記行為は違法性を欠 くものと解するのが相当である(最高裁昭和5 5年(才)第118 8号同6 2年4月2 4日第二小法廷判決•民集41巻3号4 9 0頁、最高裁昭和6 0 年(才)第12 7 4号平成元年12月21日第一小法廷判決•民集4 3巻1 2号2 2 5 2頁、最高裁平成6年(才)第9 7 8号同9年9月9日第三小法 廷判決•民集51巻8号3 8 0 4頁参照)。
上記の点を踏まえて検討するに、前記2 (3)で述べたとおり、本件投稿は、 本件アカウント上で控訴人の活動に関する意見ないし論評のやり取り等がされていない状況において、控訴人の活動に反対する具体的な理由を一切明ら かにすることなく、控訴人の社会的評価に対して極めて否定的かつ断定的な 価値判断を示す表現を用いて行われたものであるところ、こうした本件投稿 の内容及び表現振りや本件投稿が行われた状況等にも照らせば、本件投稿は、 控訴人を揶揄し、悪意をもって人身攻撃に及ぶものといわざるを得ない。
そうすると、意見ないし論評を表明する自由が民主主義社会に不可欠な表現の自由の根幹を構成するものであり手厚く保障されるべきものであることや、控訴人は見解の分かれる性自認の問題に関して社会に広く問題提起をし ており、控訴人の活動に反対する立場の者から一定の批判を受けることも甘 受すべき立場にあると解されることなどを十分に考慮しても、本件投稿は、 意見ないし論評としての域を逸脱したものでないとは認められないというほかないから、その余の点を検討するまでもなく、違法性を欠くものということはできない(なお、上記に説示したところによれば、被控訴人は、本件投 稿により、本件投稿の読者に対して殊更に控訴人の悪性を強く印象付けよう としているとみることができ、控訴人を揶揄し、悪意をもって人身攻撃に及んでいることをも踏まえると、本件投稿の目的が専ら公益を図るためにあったということも困難である。)。
(3) 以上によれば、公正な論評の法理により本件投稿の違法性が阻却されると する被控訴人の上記主張は採用することができない。そして、他に、被控訴 人が本件投稿をしたことについて正当化する事由が存在するとは認められない本件にあっては、控訴人に対する名誉毀損が成立し、被控訴人は、控訴人 に対し、不法行為に基づき、損害賠償義務を負う。
4 争点3 (損害の発生及びその額)について
(1)前記2で説示したとおり、本件投稿は、控訴人に対して「悪質トランス差 別団体」という誹謗中傷に当たる表現により控訴人の悪性を殊更に強く印象 付けるものであ急上、被控訴人は、控訴人らの警告や本件投稿の削除要請に 応じず、かえって、ツイッターの機能を用いて控訴人らが本件アカウント上 で被控訴人に反論する機会を封じ、さらに、令和4年12月9日には「差別 野郎に本名と職業など晒されたのでしばらく鍵をかけます」という強い言葉 で控訴人らを非難していること(認定事実(3)アないし工、乙3の12)ヽ 本件投稿は、ツイッターのウェブサイトでされたもので、広く不特定多数の 者が自由に閲覧することができる状態に置かれたこと(前提事実(3)ウ)が 認められる。
また、本件投稿は、ツイッターのウェブサイトで広く不特定多数の者が閲読することのできる形で現在も掲載されており、被控訴人のツイッターのア カウントのフォロワーは令和4年12月の時点で約2 7 0 0人に上るなど (前提事実(1)イ(イ))、一定の影響力を有するものと認められる。
他方において:控訴人は、自ら又は本件控訴人代理人を通じて本件投稿に反論することのできる相応の発信力を有していると考えられる上、後記 5(1)のとおり、本件においては、民法7 2 3条の「名誉を回復するのに適当な処分」として、本件アカウントから本件投稿を削除することを認めるべきであることなどの事情がある。
以上の事情のほか、本件に現れた一切の事情を考慮すると、本件投稿により控訴人が被った無形の損害に対する慰謝料として、10万円を認めるのが 相当である。
(2)なお、控訴人は、本件投稿がされた後の日である令和5年1月17日から 本件投稿の削除済みまで1日5 0 0 0円の割合による損害賠償も求めている。
しかし、本件投稿により控訴人が被った無形の損害に対する賠償については、上記(1)のとおり、本件投稿が現在も本件アカウント上に掲載されていることを含めて、被控訴人に上記10万円の慰謝料の支払を命じることで評 価済みであるから、別途、損害賠償を認めることは相当ではない(なお、本 件投稿の削除を命じた本判決の確定後において、被控訴人が従わなかった場 合に間接強制が可能となることは別論である。)。また、上記10万円の慰 謝料に関する遅延損害金の始期については、控訴人の請求のとおり令和5年 1月17日とするのが相当である。
5 争点4 (名誉回復措置の要否)について
(1) 既に説示したとおり、本件投稿は、殊更に、控訴人の悪性を強く印象付け、 控訴人を揶揄し、悪意をもって人身攻撃を行うことを目的としてされたもの であって、控訴人の社会的評価を著しく低下させるものであり、公益を図る 目的に欠ける。また、前記4 (1)のとおり、本件投稿は、不特定多数の者が 現在も閲覧し得る状態に置かれている。
そして、本件投稿は、被控訴人がツイッターの自らのアカウントでツイー 、卜したものであるから被控訴人は本件投稿を削除する権限を有しており、本 件投稿の内容に照らすと、本件投稿を削除したとしても被控訴人に格別の不 利益が生ずるとはいえない。
以上によれば、控訴人は、被控訴人に対し、民法7 2 3条の「名誉を回復 するのに適当な処分」として、本件アカウントから本件投稿を削除するよう 求めることができるというべきである。
(2) 控訴人は、被控訴人に対し、本件投稿の削除に加えて、本件謝罪文の控訴 人への送付及び本件アカウント上での掲示も求めている。
しかし、既に説示したとおり、控訴人は、自ら又は本件控訴人代理人を通じてその意見を対外的に表明することのできる相応の発信力を有していると 考えられることによれば、本件訴訟において、被控訴人に対して本件投稿の 削除及び慰謝料1〇万円の支払が命じられたことを自ら明らかにすること
によってその名誉の回復は相当程度可能であると考えられる。
したがって、本件投稿の削除及び損害賠償を命じることのほかに、控訴人 の名誉を回復するための処分として、本件謝罪文の送付及び掲示まで命じる 必要があるものとは認められない。
6 小括
以上のとおり、控訴人の請求は、被控訴人に対して、本件投稿の削除並びに 慰謝料10万円及びこれに対する令和5年1月17日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員の支払を求める限度で理由がある。
上記の認定判断は、当事者双方のその余の各主張によっても左右されるもの ではない。
第4 結論
よって、控訴人の請求を全部棄却した原判決は失当であって、控訴人の本件 控訴の一部は理由があるから、原判決を変更することとじて、主文のとおり判 決する。
東京高等裁判所第23民事部
  裁判長裁判官 館内比佐志
     裁判官 間  史恵
     裁判官 富沢賢一郎

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