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ナミビアの砂漠に蜃気楼を見た

せーのっ!いつかは親の喪主!山口幕府です!つかみが大事かと思い、挨拶ギャグを考えてみましたが、大失敗でした!もうやめます!
今回のざっくりカルチャーは映画ナミビアの砂漠について書いてみようと思います!
知ってますか?ナミビアの砂漠。最近話題になってますよ!監督が27歳とかで、初めて長編映画を取ってカンヌの何かしらの賞をとった映画みたいです。なんかスゴいらしいですよそれって。
じゃあ内容がどうだったのかと言われると、分からない。
なんか面白かったんですよ。観た直後は???だったんですけど、徐々に徐々に味を感じてくる。中華料理屋で食べた麻婆豆腐の花椒が帰り道に口を痺れさせて「やっぱあの中華屋うまかったよな…」って思うときあるじゃないですか。まさにその感じなんです。
この映画の面白さのピークは次の日にやってきます。二日酔いみたいな面白さなんですよ。

どんな映画かお伝えします!奔放に生きる主人公の女性、カナ21歳。彼女をただただ見るだけの映画です。そう観察するだけです。
ナミビアの砂漠ってYouTubeで様子がライブされてるんですよね。時々映り込む動物とかをぼーっと見れる様になってます。劇中のカナもナミビアの砂漠チャンネルをぼーっと見るシーンがあるように僕らはただただ俯瞰でカナを見続けるんですよ。
そろそろ何が面白いんだ!!!と見ている方が各々の家庭でちゃぶ台をひっくり返す準備をされている頃かと思うのですが、この映画の面白さは、あまりに具体的すぎるカナのディティールにあるんですよ。

映画の冒頭、カナは駅を歩くところから始まります。引きからどんどんズームしていくんですがとにかくカナの歩き方がだらしねぇ。めっちゃ体幹が緩い歩き方で、マリオ64のバッタンみたいにドスドス歩いてる所から始まるんですよね。そこから、友達と喫茶店で会います。友達は友人が自殺したとカナに悩みを打ち明けるんですが、カナは「うわぁ紙ストローだ…」と呟いたり、隣の席のノーパンしゃぶしゃぶの話に注意が向いて次第に友人の話よりもノーパンしゃぶしゃぶの話に意識が持っていかれます。
その後友人を励ますために2人でホストに行き、その後友人を置いて浮気相手の彼氏に会いに行ってセックスします。んで、浮気相手に花をもらって、その花を持ったまま同棲している彼氏の家に行って花を飾ります。

やべぇでしょ。やばい女だって思ったでしょ?エクストリームスケジュールですもんねこの1日。
でもね、よく考えてみて。
あなたもそうじゃない?
1人の時ダルい歩き方してない?
友人の悩みよりノーパンしゃぶしゃぶの話耳に入ってこない?
落ち込んだ友達にもうちょっと一緒にいてほしいって言われた時にとりあえず友達関係なく自分が楽しめそうな所選んじゃったりしない?
なんか友達って言っても結局いた方がいいから付き合ってるだけで心から通じ合う程の労力は必要ないと思ってない?
同棲してる彼氏が、もうつまんなくなってきた時にたまたまあったイケメンと浮気しない確証はありますか?
そう、映画として見ると奔放に見えるんだけど、めっちゃ現実に居かねない。すっごくリアルな映像なんだよ。それがナミビアの砂漠。
仕事もしてます。脱毛エステの職員なんです。どうせ奔放なんだから客にメチャクチャな事言ったりするんだろうと思うでしょ?普通に最低限の礼節は保ってるし、仕事で問題は起こさない。

そう、これが今の若い人の感覚だと思うんです。
別に熱中してる事もなければ、やりたい事も無いし、社会に適応できない訳でも無い。満足では無いけど、生活出来なくはない。時間をただただやり過ごす。友人と呼べる存在はいた方がいいけど、そこまで分かり合うのも面倒。自分で選択せず流れに身を任せながら自分の気持ちのいい方へただただ流れていく。
明るい虚無。ただただ砂漠を歩くように変化のない毎日を送るんです。あなたの心の中にもナミビアの砂漠は存在しているはず。

そして、生活のディティールもめっちゃリアル。
休日に冷蔵庫開けたらハムしか無くて、冷蔵庫の前でハムをモッソモッソ食べたり、ハンバーグこねてたら電話きちゃって、手洗うのめんどくさ過ぎて適当にキッチンペーパーでゴソゴソ拭いたり。帰り道になんとなく木の枝もってみちゃったり。
確かにさ、よくある映画って女優の人が完璧にビシッと決まった部屋着きて、萌え袖ぐらいの長さの袖であったかい紅茶の入ったマグカップを両手で持ってさ、可愛らしくフーフーするシーンとかありますけど、実際の生活で紅茶なんか入れなくない!?ノーブラTシャツとパンツでさ、昨日口つけたコップでガブガブ水飲まない?
そういう生活の生々しさの映し出し方が神がかってる。
実際、主演の河合優実はノーブラでだらだらしているからおっぱいが見えたりするんだけど、なんか、女優のおっぱいだ!!っていうよりも同棲してる彼女のおっぱい見ている感覚になるんだよね。おっぱいではあるんだけど、身近な特別じゃないおっぱいを見ている感覚になる。生活感がリアルすぎてそんなあり得ない現象が起こるんだよ。

あと、主人公のカナがめっちゃ女なんだよ。
在宅で働く彼氏が構ってくれないからって後ろからぬいぐるみ投げたりして、彼氏が「は?」ってなったら「拾えよ!!!」ってキレて殴ったりするんだけど、彼氏も「やめろや!!!」ブチギレたら、瞬時に悲しい顔をして「え?なんでキレてんの…?あり得ないんだけど…!」と元も子もない事言い出す訳。
ああああァァァァァァああめっちゃ女ぁ!!!!構ってくれないからって拗れた怒り方するの、あっ、めっちゃ女ァァァァァ!!!
そして、僕この雑で、自分自身に残酷なほど素直で、生々しすぎるほどに存在しているカナに蜃気楼を見るのです。
僕はこんな女性と、付き合ったことがある。と。

とにかく、気だるそうに生きている女性でした。2人でスペースマウンテンに乗るとあまりに体幹が弱く、急カーブでは隣に座っている僕の膝の上に彼女の頭が乗るほどに体幹がカーブのGに負けていました。喧嘩すると僕は理論立てて話をすると彼女は僕をボコボコにして「口で勝てないから殴ったわ!!!!」とキレながら元も子もない事をいう女性でした。料理ができず、カップラーメンに酢をぶっかけて食ったり、スナック菓子で夜ご飯を終えるような奴でした。
僕はそんな彼女に明るい虚無を感じていました。将来を考える訳でもなければ、仕事も別にやりがいを感じていない。友達も多いけど、話を聞くとすっごい上辺の話ばっかりしていて。でもそれがまた今を生きる人間らしくて。こんな子を支えるのは僕だとばかり思っていたのです。

「もうあんまり好きじゃないかもしれない」

交際して4年が経つ頃、彼女にそう告げられました。夜の車内で、外は雨が降っていました。「もうどうする事もできないの?」と聞くと彼女はうなづいて、そこから話さなくなってしまいますが、しばらく運転した時に「別れるって言いたくないからそっちから言って欲しい…」とボソッというのです。車は彼女の家に着きます。
ハザードを焚きながら「じゃあ俺が言えばいいのね…」と深呼吸した時にふと我に帰ります。
アレ待って、なんで俺が言うの…?なんか気づいたら俺が言う流れになってる!!フラれるのに!?スゲェ残酷なフラれ方してんのに!?アレ!?!?なんで!?
でも同時にこうも思うんですよね。こんなメチャクチャな事平気で言う人間臭さが好きだったんだよなぁ…と。そしたらホント、走馬灯みたいに思い出が脳内を全力疾走して、「ちょっと…ごめぇんやっぱ言えないかもぉぉぉ!!!」と人生で初めて大泣きしてしまいました。

実はナミビアの砂漠にも似たような場面があって、車内でカナの彼氏も「もうどうする事もできないの…?」と聞いて大泣きするシーンがあります。

まぁケロッと別れるんですけどね。その時の彼女もカナも。自分から別れを切り出すという重大な決断を避けながらも新しい出会いをフラ〜っと求めていくんです。
そして物語は続いていきます。その後の展開にこの別れた事は一切関係なくしれ〜っと続いていくのです。そう、人生に伏線なんてないんだもん。こんなことは年月が経つにつれてその時期の濃度が薄まってほぼなかった事になるだけです。
僕にはそう見えました。スクリーンから20歳ぐらいの頃の原液そのままの雰囲気が漂ってきて、ナミビアの砂漠に僕は蜃気楼を見たんです。

カナが物凄く現実に居そうな感じから考えるに、おおよそあなたの周りにもカナがいるはずなんです。あなた自身がカナかもしれません。あなたもきっとカナに蜃気楼を見るはずです。

映画としては、この後もいろんな事が起こるんですが、なかなか考察しがいがあって深い映画です。でもまずは見た時にこのカナという今を生きる女性の解像度に注目してほしい。ぼーっと見るだけでも全然面白いですよ!

※嫁校閲済み

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