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創作 ゴミ捨ての日 ゴミ屋敷になる前に

僕の部屋は散らかってると思うんだ。それでもずいぶん前よりもましになった。空いたペットボトルが林立するなんてもう昔話だよ。ペットボトルは洗ってゴミ箱にポイさ。昔とはおさらばだよ。会社からもらうきれいにプリントされた通知もすぐにゴミいきさ。どんどん捨ていこう。ゴミ箱がいっぱいになったら分別してゴミ袋へ。作業完了。

ゴミ袋がいっぱいになったら、口を縛って次のゴミ出しの日に備えておく。次のゴミの日はいつだろう。燃えないゴミは火曜日だったような気がする。いや確かに火曜日だ。今日は日曜日だからゴミを置いておかなくちゃいけない。すぐに出せるといいのだけど、決まった日にしか捨てるわけにはいかない。不便だと思うけど、ごみ収集の人たちのことも考えなくちゃ。

そうだ。今日は資源の日だった。空き瓶を捨てなくちゃ。空き瓶だけでなく、アルミやスチールの缶も捨てられる。資源の日は1月に一回しかないから出し忘れると大変だ。どんどんたまってしまう。栄養ドリンクの瓶がたまっている。栄養ドリンクなんて効くのか怪しいけど、つい飲んでしまう。頭がしゃっきりして、頭がよくなった気がするんだ。おかしなもんだよ。

栄養ドリンクの瓶とアルミ缶をゴミ袋に放り込みながら、今日は寒いことに気づく。防寒をしっかりしなきゃ。ほんとに寒くてやってられない。このまま氷河期が来るに違いない。身支度をしてゴミ袋を下げてふらふらと歩きだす。ああ、ほんとに寒い。外は明るく空は抜けるように青空だ。なんでこんな朝早くから歩いているのか疑問に思う。そうだ。ゴミ捨てのためだった。

資源のゴミの日には人が出ている。

「おはようございます」

「はいおはよう」

透明な瓶と茶色の瓶は分けて、プラスチック製の空色のコンテナに分別して捨てる。アルミ缶も別だし、スチール缶はやっぱり別だ。どうして、ゴミを捨てるだけなのに複雑にしなければいけないのだろう。僕は確かめながらごみを捨てていく。栄養ドリンクは茶色の瓶。サイダーの缶はアルミ缶。今日はスチール缶はなかった。リズミカルにどんどん捨てていけたら、いい気がした。でもいつものことながらまごつきながら捨てていく。茶色、瓶、アルミ、スチール、世の中は複雑だ。

資源のゴミの日に人が出てる。3人ほどの人だ。知らない人だった。3人とも男で、防寒着を着こんで、焚火の周りで話し込んでいた。何を話しているのかは聞こえなかった。焚火からは煙が立ち上っている。そういえばここに来る前から煙が見えた。あの煙が目印だったのだ。煙を目指せばごみを捨てる場所がわかるのだ。

すべてを捨て終えて、周りを見てみると、同じようにゴミを捨てている人がいた。自家用車で来て、ゴミの袋を下げて降りてくる人が見えた。僕は特に話しかけもせずに歩き出す。来た時と同じ道を、少しだけ身軽になった僕はゆっくりと歩いていく。

ゴミ捨ては機械のメンテナンスに似てると思った。一緒に働いている機械はグリスを塗ったりしないといけない。グリスを塗るにはまず、古いグリスをふき取ることから始める。何かを始める前にまず古いものを捨てなくてはならない。新しいものは古いものとの交換から来る。古いものを捨てることはゴミも古いものと烙印を押している気がした。もういらなくなったもの。飲み終えた瓶は古いものそのものに思えてきた。

物を買うときには何か新しいことが始まる。僕の部屋に新しいものが増える。増えることはワクワクすることだ。何かの始まりの予感がする。それなら捨てることはどうだろう。新しい始まりだろうか。ゴミは過去で、買い物は未来かも。過去はいつだって悲しみとともにあるものだ。

ゴミは捨てなければゴミ屋敷一直線。あれも捨てよう。ゴミを袋に放り込んでいく。ゴミであふれる前に捨てていこう。ゴミで埋め尽くされる前に。


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