夏目漱石『文鳥・夢十夜』を読んで
『文鳥・夢十夜』夏目漱石 2002.9.1 発行 新潮文庫
『文鳥』
喪失感と孤独が漂う話でした。友人に勧められて文鳥を飼い始めた主人公は、美しい女の姿を文鳥に重ねます。
日常の場面を切り取ったように淡々と書かれており、最初は、世話をしていたものの、寝坊したり、小説を書くことが忙しくなるなど、世話が行き届かず、文鳥は死んでしまいます。
淡々と書かれているため、心の奥底を流れるような悲しみを感じました。
やり場のない感情を下女にぶつけてしまうところや、葉書に自分のせいで亡くなったわけではなく家の者のせいで亡くなったと書くあたり、そこに人間味を感じました。
『夢十夜』
十編の短編からなる作品で夢の物語。各話の分量は短いながらも、凝縮された内容で読み応えがありました。
特に『第一夜』が印象に残り、美しい話でした。
この話では、女性が百年後に再会する約束をして死んだ後、埋葬し、待つ間に百合の花になって男性の前に現れるという幻想的な物語です。
百年後に再び合う(会う)から、百合の花が選ばれたと思うと、素敵だと感じました。白骨の上に花が咲くように、花は死体の上に咲くとなると、百年経って百合の花に魂が宿るという意味合いにも取れるなと思いました。
『永日小品』
多岐にわたるジャンルで、日常生活が書かれている一方で、「蛇」や「声」など、夢のような独特の雰囲気漂う作品もありました。
ここまでお読みいただきありがとうございました。また次の記事でお会いできたらと思います。