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ナンバープレートが777の主と色々ある

人とのトラブルには細心の注意を払っていた。

相手が大して何も考えずに取っている行動に対し、毎日毎時毎分目くじらを立てる…それは大袈裟だけど、もやもやを抱えることが多くあり、精神衛生上良くない。

だからこそ、自分は総じて過敏になりやすい傾向があると自覚して過ごすようにしていたのだ。自覚することで、口論や衝突を辛うじて事前に回避できていた。


ところが。


自転車で通勤中、横断歩道を渡っているときに車が迫ってきた。左折車に巻き込まれそうになった。

僕が横断歩道に差し掛かるタイミングで、僕の進行を塞ぐ形でその車の鼻先と接触しそうになる。車は急停止した。クラクションが高鳴った。

僕は意に介さず車の鼻先を避けて横断を続けた。ふと目を遣るとナンバープレートは「777」だった。

運転手の怒号が右斜め後ろから聞こえた。
「おいコラー!!」


…はぁ
僕は心の中でため息を漏らした。
漫画みたいなシチュエーションだな…

歩行者の横断妨害
妨害車のナンバーが「777」
「777」の主はキレやすい

本当にそんな人いるのか?
僕は横断歩道を渡りきったところで足を止め、後ろを振り返った。


いる。

左折の途中でわざわざ車を止め、こっちに向かって何か叫んでいるが周りの騒音でよく聞こえない。左折したい後続車が、僕とその運転手との間を迷惑そうにすり抜けていく。運転手は一度頭に血が上ると周りへの配慮が皆無になるようだ。

僕は横断歩道を渡り切っているので、もうその運転手に用はない。こっちも出勤中で暇ではない。歩行者信号が点滅し始めた。

僕が背を向け自転車を漕ぎ出そうとするのを見てか、運転手はなぜか車を降りて横断歩道を渡り始めた。

「おいちょっと待てコラーー!」
ドン


鈍い衝突音がして再び振り返ると、運転手が軽自動車に轢かれたところだった。

軽自動車の主は、右折信号の切り替わり前、ほぼ減速せずに横断歩道に進入した30代の女性だった。後部座席には保育園に向かう4歳の女の子と2歳の男の子を乗せていた。女性と子どもたちにけがはなかった。


僕は静かにスマホを取り出し、119に電話した。



危なかったが、僕はコントロールできていたと思う。

※この記事はフィクションです。