掏摸
掏摸 / 中村文則著
掏摸として生きる男が、掏摸仲間から強盗に協力するよう誘われる。報酬を得た男は身を隠すが数年後、東京に戻ってきて、強盗を取り仕切っていた男に再会してしまう。
中村文則さんの文章は、キャラクターたちが負う痛みとか不快感とか気怠さがイメージしやすいし、印象に残る描写が多いと思った。次からはそこに注目して読みたい。あと虫を表現によく使う気がする。
・世界を笑った連中
男が子供に歴代の凄腕スリ師のことを『惨めさの中で、世界を笑った連中だ』って説明してるとこが好きだった。(単行本p78)
スった財布に署名入りカードを入れて返したドーソン、10万回もスリをしたアンゲリッロ、自分の裁判中に判事のメガネケースをスったエミーリエ、日本の小春という掏摸たちについてもっと知りたくなった。
作者があとがきで『スリという反社会的な存在に好意を感じるのは、僕の性質なのでご容赦願いたい。』と書いていたけど、自分も泥棒やスリに対してアウトローだけど善も成す、かっこいいイメージがある。ルパン3世とか、伊坂幸太郎の黒澤(泥棒)とか、石川五右衛門みたいな存在がいるからなんだろう。
・死の恐怖を味わう
木崎(組織のボス)が主人公に対して言った
『最も正しい生き方は、苦痛と喜びを使い分けることだ。...お前がもし悪に染まりたいなら、善を絶対に忘れないことだ。...(今回の仕事に失敗しても)その失敗から来る感情を味わえ。死の恐怖を意識的に味わえ。...(それができたら)この世界を異なる視線で眺めることができる。』(単行本p119)
というのはどういうことなのか、その文章が自分の中で強く印象に残った。この男(組織のボス)は正義や悪とは別の次元で生きているように感じたし、それが彼が持つ哲学なんだと思った。