形見のメガネは不思議
◇◇ショートショート
洋子のおばあさんは人気者でした。喫茶店を営んでいましたがとにかくおしゃべり好きで常連客はおばあさんとの会話を楽しみに店に来ていたくらいです。気さくな女性で人の懐にさりげなく入り込むのが上手でした。
おばあさんが気にかけていたのは内気な性格の孫の洋子のことです。
「おばあちゃんはどうしてみんなとすぐ友達になれるんかなー、私もおばあちゃんみたいになりたいのに」と洋子が言うと
おばあさんはメガネを外しながら「このおかげかもねー」と言っていました。赤と黒のコントラストがとってもおしゃれな大きなフレームのメガネです。
「洋子、いつか、あんたにこのメガネあげるけんね、そしたら人付き合いが上手くなるかもしれんよ」おばあさんはそう言っていました。
おばあさんの形見としてメガネが洋子のもとに届いたのはそれから6年後です。
洋子はおばあさんのメガネをかけて鏡を覗き込みます。
「おばあちゃんのメガネ懐かしいなー、このメガネをかけたら私も社交的になれるかな・・・」
夏のある日、ボーイフレンドの達也と待ち合わせをしていた洋子は「おばあちゃんのメガネを達也に見せよう」とメガネを持って出かけました。
電車に乗った洋子は、メガネをかけてみます。
すると、斜め前に座っている50代の女性の声が聞こえてきました。
「今どきの女子は、大きなメガネをかけてカッコ悪い、フレームが大きすぎ、それにノースリーブのファッションで露出が多すぎるんよ、品がない」
その女性は素知らぬ顔で窓の外を見ていますが、こんなことを考えていたのです。
目の前に立っている若い男性は吊革につかまって、スマホを見ているようでしたが、洋子には彼のこんな声が聞こえます。
「前の女の子、カッコいいじゃん、個性的なメガネを見ると、お洒落上級者かな、僕の中では85点、スカートだったら95点なんだけどな―」
おばあさんの形見のメガネをかけてみて、洋子はメガネの力を知りました。メガネをかけると人の心が読めるんです。
次の駅で高齢の女性が乗って来ました。若い洋子が立って席を空けるべきですが、その女性は、こう言っています。
「私は電車で席を譲られるのが大嫌い、そんなに年寄りじゃないの、年寄り扱いしないで欲しい」
洋子はその女性の心の声を聞いて、席を譲るのを止めました。
するとまた、斜め前の女性が、こう言っています。「やっぱり、あの子は性格が悪いんよ、お年寄りに席を譲ることもできんのじゃけん、今どきの女の子はダメなんよねー」
洋子は心を読めるメガネに戸惑っていました。
「おばあちゃんはこのメガネを上手に使ってたんだろうなー、私には難しい・・・」そんなことを思っていたら、目的の駅に到着です。
洋子は家を出るのが遅れて、達也との待ち合わせの時間を30分も過ぎていました。
急いでカフェに駆け込むと、彼がにこやかに手を振っています。
「ごめんねー、家を出るのが遅くなっちゃって、遅れちゃった」と言うと
達也は「大丈夫、電車に乗り遅れたんだろ」と笑顔です。
でも、洋子には彼の本音が聞こえていました。
「洋子は約束の時間を守った事が無いからなー、やっぱり今日も遅れたねー予想通りだ」
「私、いつも遅れるでしょう、達也ごめんなさい、待たせてごめんなさいね、反省してまーす」
と言うと彼は「大丈夫だって、ノープロブレム」と、答えました。
洋子には彼の心の声がちゃんと聞こえています。
「今日の洋子、素直でいいじゃん、謝ってくれてる、今日の洋子は可愛いよ」
洋子はすかさず言いました。
「私はいつでも可愛いんだよー」
洋子の反応に達也はちょっとびっくりして「洋子、そのメガネいいねー、似合ってるよ」
「おばあちゃんから貰った、形見のメガネなの、達也に見せようと思ってね」
洋子はこの時に決めました。このメガネはここ一番の時にだけ使おうと。
「達也の本音が聞けた、おばあちゃんありがとう」と心の中で呟いて、洋子はメガネを外しました。
【毎日がバトル:山田家の女たち】
《私はメガネかけたら人を凝視出来るんよ》
食後にほんのしばらくリラックスしているばあばと。
「人の心が読めるメガネあったらええねー、私も買いたいわい」
「お母さん、これはショートショート、物語です」
「私はメガネかけたら普通の時より人を凝視出来るんよ、メガネは不思議じゃね、ファッションにもなるし、別の人格になる事も出来るかも知れん、あんた面白い事考えるねー」
母にとってショートショートストーリーは何故か現実とリンクして入ってくるようです。人の心が読めるメガネ、ちょっと怖いですね。
【ばあばの俳句】
秋晴るる今日は何処かに行きたいな
母のシンプルな思いがそのまま句になっています。何処かに出掛けたいと言う思いがありありと分かります。秋晴れのお天気だからこそ、今日こそ出掛けたいのです。
母のイラストの目、恐ろしいくらい気合が入っています。このイラストを見て私もびっくりしました。母はステイホームのストレスが溜まっているのです。
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